私がシャクナゲにのめり込むようになったのは、栽培を始めて間もない頃、多分1978年に、園芸品種‘ピンクパール’の開花を見たことだった。特に開花した2日間ほどの薄いピンクの花色の輝かしさと瑞々しさを見たとき、過去にこんなにきれいな花を見たことはなかったと思い、感動した。ピンクパールはその年、夏を越せずに枯らしてしまったが、火をつけられた私のシャクナゲ熱は消えなかった。

 次に、シャクナゲの花色に魅せられたのは、日本ツツジ・シャクナゲ協会(JRS)に入会させていただき、しばらくして、京都支部のある会員さんの庭に植えられていた園芸品種‘ネリアーブ’の赤黒い花房を見た時だった。新鮮な花色に驚いた。特に若い頃はシャクナゲに限らず、情熱的な花色が好きだった。すぐに、この園芸品種の名前と購入先を教えていただき、問い合わせの手紙を書いて、一本立ちの40~50cmほどの苗が届いた。今なら接ぎ木用の穂木を1、2本お願いするところであるが、入会間もない、ごく初級者の私には身の程の知らずの厚かましさに思えて、できなかった。それに接ぎ木の技術もなかったと思う。血赤色の原種、R. arboreumというシャクナゲがネパールの国花だということも間もなく知る。入手の経緯は憶えていないが、多分、1980年代中頃に園芸品種‘レオ’を通販で購入した。これは10年足らずで枯らしてしまったが、その頃育てていた園芸品種‘ルビーハート’とともに、私には強い印象の残った花である。濃い赤色とともに、花の形、ろう質の厚めの光沢のある花弁が私の好きな特長である。両者に共通する遺伝子は原種、R. elliottiiに由来するもので、この原種に憧れを抱くようになった。この15年ほどの間に‘レオ’や‘ルビーハート’を再び入手し、さらに、ホンシャクナゲやアカボシシャクナゲとR. elliottiiとの交配種も育てるようになって、大いに楽しみにしていた。また、3年前には、R. elliottiiの接ぎ木苗を頂いて、栽培の方法の工夫と改善を真剣に考えねばと栽培意欲がいや増していた。R. elliottiiは譲っていただいた年こそしっかりした新芽も伸び、無事夏越しができたが、翌年8月も終わりになって急速に弱って枯れてしまった。それだけでなく、昨夏までの2年間に上述のR. elliottii交配種はすべて猛暑に耐えられなかった。いつもなら、接ぎ木をしてスペア苗を残しているのだが、時期が悪かったせいか、今回は駄目だった。がっかりして、シャクナゲ栽培はほどほどにして、ササユリの栽培を中心に絞ろうかと真面目に考え、一部はお寺などシャクナゲの譲渡先も考え始めている。

 花色に多様性の低い日本シャクナゲの中で、若い頃はより濃色のものとか、純白の花に興味があった。最近は、淡い色の花に惹かれている。一つには、濃色ピンクのシャクナゲにすっきりした色のものに出遭うことは少なく、紫味、青味が混じった、濁った花色のものが多いことが理由であるが、自分自身が老いたことが大きな理由かもしれない。純白よりも、ごく少しピンク味が感じられたり、雌蕊などがピンクの、いわゆる酔白もいいなと思っている。

 

写真1.R. arboreum交配‘火焔山’.    撮影 202404

写真2.園芸品種‘ルビコン’. ‘ルビコン’は複雑な交配から生まれているが、R. elliottiiR. arboretum ssp. nilagiricumの両原種の遺伝子を含んでいる。                  撮影 20240428

写真3.石川誠一氏交配品種‘夢紅貴’. 交配の組み合わせは知らない。    撮影 20240501

写真4.ツクシシャクナゲ.  花がばらけて、花房とも言えないほど形がよくないが、私は花色を気に入っている。     撮影 20230408

写真5.交配種‘白花アズマシャクナゲ×R. simiarum’(交配者不詳).    撮影 20240429

 

[付け足し]

 昨年(20230429)、自分の交配種の二重咲きの経験について記した。今年の結果を記録しておく。昨年施肥に失敗したのか、今年着いた蕾は僅か2個。4月に開花した。昨年の表現に従うと、一つは5/7、もう一つは7/8(分母は花房を作る花輪の数、分子は二重弁化した花輪の数)で、合計すると12/15で、二重弁化率0.8となった。