意識を薄らと取り戻した。車の外は煙に覆われており、ここがどこなのかもよく分からない。ただ、漏れるような電流が車内に走っており、危険だという事だけは察した。

   体中に激痛が走っている。だけど右腕の感覚がない。呼吸さえもまともにできない状態で右腕を確かめた。
   左腕には右腕の感覚は確かにある。だけど、その右腕に感覚がないのだ。体中が痛いのに右腕だけには痛みがない。まるで、ここにないみたいだ。

   ドアにうなだれて、ピクリとも動かずにいる悠愛の姿があった。瞼が半開きになっまま硬直している。その姿を目にした途端、全神経が麻痺してしまったかのように痛みを感じられなくなった。

「おい悠愛っ、しっかりしろっ」
   左手で揺すった。だが、悠愛に反応はない。

   不安が過った。死んでないよな?……と思ったからだ。すかさず悠愛の口元に耳を運んだ。ほっとした。微かな吐息が耳に触れている。

   左手でドアを開けた。そしてそのまま悠愛を抱き支えて、ぶり返してきた痛みで意識が朦朧となりながらも、何とか外に出た。
   
   できるだけ車から離れた位置に、悠愛をそっと寝かせた。そして、瞼が半開きになったままの悠愛のの頬に左手を添えた。
「悠愛、頼む……」
   涙で視界が滲んでしまう。
「死なないでくれ……」
   と、左手を頬に添えたままおでこを合わせて、そっと唇に唇を重ねた。だがやはり、悠愛に反応はなかった。

「待ってれよ悠愛、岳斗を助けたら、また来るから」
   俺はもう一度キスをして、赤い車に目を向けた。

   赤い車は原型をとどめていなかった。もぎ取れた助手席のドアが地面に横たわっている。その為か、悠愛を寝かせたこの位置からでも、助手席に頭を埋めて倒れている岳斗の姿が見えた。
   俺は焦った。車から電流が噴出しており、その電流が瞬く間に、辺りを凄まじく照らす程の激しいものへと姿を変えたのだ。

「岳斗ーっ」
   俺は即座に駆け付けた。しかし、青い閃光に行く先を阻まれた。
   だめだ、近付けない。感電しちまう。
   そう思った直後、電流がドラゴンのような閃光を発して火の手を上げた。更にもう一度ドラゴンのような電流が走ると、小規模な爆発が連鎖し始めた。

「おい岳斗っ、起きろよっ」
   近藤には叫ぶので精一杯だった。そんな俺の声も虚しく、小規模な爆発は激しく連鎖した。
   岳斗の手が少し動いた。顔も少し上げている。しかし、もう一度青い閃光が激しく走ると、小規模な破裂が一体化したかのような大爆発が発生し、岳斗ごと車を呑み込んだ。
   その爆風に巻き込まれた輝瑠は、引き摺るように地面を転がったのち、またも視界が闇に囲まれた。



    体が揺れる感覚に、薄らと意識が戻った。どうやら、仰向けに寝かされているみたいだ。
   そんな俺の耳には、微かにしか聞こえていないが、男たちの慌てた様子の声が横切っていた。

「だめだっ……こっちの男の子は、死んでる……」

「こっちの女の子も危ないっ……反応がない!」

   俺には何の事を言っているのか分からなかった。朦朧としている意識の中で聞こえてくるその声は、夢の中のものだと感じていたからだ。
   近藤の意識は、霞んでゆく声と共に遠退いていった。



    ※        ※        ※



   私は分かっていたよ。輝瑠が抱き締めてくれた温もりは肌に感じていたし、懸命に外に運んでくれて、その後にかけてくれた言葉もちゃんと聞こえていたの……。
   その目尻が上がった二重瞼の奥にある綺麗な瞳で、心配そうに私を見詰めていた眼差しも、頬に添えてきた左手の温もりも、その筋の通った鼻が当たるくらいにおでこを合わせてきて、唇にキスをしてくれた感触も全て伝わっていたよ。
   
   でもね、体が動かなかったの。

  体に伝わってくる感触と、体を動かす神経が分裂しちゃっているみたいで、全然いう事をきいてくれないんだ。

   本当は、私だって抱き締めたかったんだよ?……。キスもしたかった。でも、それができなかったの……。

   救急隊の人が駆け付けてきてね、私をタンカーに乗せたんだ。これは危ない、って私に言うからね、大丈夫です、って返したかったんだけど、その声も出せなかったんだ……。

   そんな時に、遠くから聞こえた声が耳に入ってきて、安心したんだ。黒髪の男の子のほうは、命に別状はないって聞こえたから……。
   でもね、その後に続いた声を聞いて、血の気が引いた……もう一人の金髪のほうは、既に死んでる……そうはっきり聞こえちゃったから……。

   凄く悲しかった。でも、筋肉が硬まっちゃったみたいに動かせなくて、表情にもできないの……。
   涙も出せない……。
   だからね、私、気付いちゃったんだ……。
   ずっと、このままなのかなって……。

   きっと、輝瑠と笑い会える日は、もう二度と来ないのかも……そう思ったんだ。










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