フェストヴァンクール高裁判決(令和4年12月26日)

 

【判決】

被告らはメンバー4人に396万円支払え(一人99万円)

 

【事案の要旨】

原告ら(バンド名:FEST VAINQUEUR)が、被告会社との専属マネジメント契約を解除後も契約締結中と同様のバンド名での活動を継続しようとしたところ、被告会社の代表である被告Yによる妨害に合い、これに対し原告らが提訴。

 

被告Y:被告会社の代表取締役

本件要請:被告Yによる原告らの活動への妨害工作

本件通知:被告Yによる原告関係者へのメールの送信

 

 

【争点】

1.一審被告Yが本件要請をしたか した

2.本件各通知及び本件要請は不法行為に該当するか する

3.一審原告らの損害の発生及びその額 396万円(一人99万円)

 

【裁判所の判断】

《認められる事実》

〈契約書〉

平成30年1/1付け

末尾に被告Yの記名押印、バンド名とメンバー4人の記名押印がある。

 

実演家:X1、X2、X3、X4、以下併せて「乙」という。)とは、以下のとおり専属契約を締結する(以下「本契約」という)。

第1条

乙は、実演家として、本契約に定める各条項に基づき甲の専属である事を約し、甲以外の為に、いかなる実演の為の交渉及び実演(以下「実演活動」という)を行わないものとする。

第2条

前項に定める「実演活動」とは以下のものをいう。

① テレビ、ラジオ、映画等への出演、実演

② コマーシャルフィルム、コマーシャルミュージックへの出演、実演

③ レコード(CD、MD、その他あらゆる音の固定物及びその複製物をいう)及びビデオグラム(DVD、VHS、LD、ブルーレイディスク、その他あらゆる音及び映像、または映像の固定物及びその複製物をいう)への実演、出演

④ 興行、コンサート、イベントへの出演、実演

⑤ 出版物、書籍の出版を含む出演、執筆

⑥ 作家としての活動(日本音楽著作権協会の規定に基づく)

⑦ 乙関連のキャラクターグッズへの出演、名称、肖像等の使用

⑧ 乙関連のファンクラブ、ファンサイトへの出演、名称、肖像等の使用

⑨ その他、上記各号に付帯する一切の芸能活動

第3条

甲は、本契約期間中、乙のマネージメントの一切を引き受け、その芸能活動が成果を収めるよう努力するものとする。

第5条

甲は、本契約期間中、広告・宣伝及び販売促進のため、乙の芸名、本名、写真、肖像、筆跡、経歴、音声等、その他の人格的権利を、甲の判断により自由に無償で利用開発することができる。

第6条

本契約期間中に制作された原盤及び原版等に係る乙の著作権上の一切の権利(複製権、譲渡権、頒布権、上演権、上映権、送信可能化権、著作隣接権、二次使用料請求権、貸与報酬請求権、私的録音録画補償金請求権を含む著作権上の一切の権利、所有権を含む)ならびに、乙に関する商標権、知的財産権、及び商品化権を含む一切の権利はすべて甲に帰属する。

第9条

契約期間及び解約期間終了後の措置は以下のとおりとする。

(1)本契約の有効期間は、平成30年1月1日より2年間とする。

(2)甲または乙が、本契約満了3ヶ月までに相手方に対して契約終了の意思表

示をしない限り、本契約は自動的に2年間延長継続しその後も同様とする。

・・・

(5)実演家は、契約期間終了後6ヶ月間、甲への事前の承諾なく、甲以外の第三者との間で、マネージメント契約等実演を目的とするいかなる契約も締結することはできない。

 

 

〈バンドの活動状況〉

・平成22年8月1日、被告会社とマネジメント契約締結

・メンバーの入れ替えを経て現在の4人になった

・シングルCD9枚(7枚目はオリコン17位、8枚目はオリコン8位)、配信シングル1枚、アルバム3枚、ミニアルバム3枚、ベストアルバム1枚をリリースしている。

・単独ライブも開催している。

・雑誌の表紙を飾ったこともある。

・テレビ番組のエンディングテーマに使われたことがある。

・テレビやラジオに出たことがある。

・平成30年10月28日から1年間活動休止した。

・平成30年10月28日時点でのFCの会員数は928人

・被告会社は原告らに対し、平成28年~令和元年の報酬として、それぞれ年120~220万円支払った。{少なくねぇ?}

・平成31年4月9日、バンドメンバーの一人がバンド名についての商標権を取得(指定役務:音楽の演奏等)

 

〈契約解除に至る経緯〉

・原告らは、平成31年4月9日に代理人を通じて令和元年7月13日をもって契約を終了する旨の通知をした。

・被告Yが被告会社の従業員と話した際の発言「段取りに腹が立つ。バンド名は使わせない。損害賠償請求してやる。」

・被告Yがバンドのメンバーと話した際の発言「契約を更新しないことを悪いとは思っていないが、やりかたがおかしいのではないか。全て契約違反に触れる。俺が回答するなら『潰す』で終わり、10月の再始動に向けて100万円かけて表紙をとっている。契約書の内容を理解してください」

 

〈東京地裁の判決〉

・バンド名を使えなくてもバンド活動できる。

〈東京高裁の判決〉

・原告らにバンド名のパブリシティ権が認められ、被告会社にはバンド名を利用する権利はないから、原告らのバンド名の使用を妨害することを禁止する決定。

 

〈バンド名を変えて活動〉

・原告らは、『FEST VAINQUEUR』名義で活動すると被告Yの妨害活動によって関係者に迷惑がかかるので、『FV』名義で活動。

・バンドメンバーが事情を伏せてバンド名を変えて活動することをTwitterで告知。

 

〈被告の妨害活動〉

・バンドメンバーが出演予定のイベントの運営に出さないよう連絡

・バンドの記事を書いたポータルサイトの運営に記事を取り消すよう要請

・FV名義のHPの運営にライブをしないよう要請

・バンドのメンバーに対して「レコードの製作費、ライブのキャンセル料、逸失利益もろもろ含めて1563万円支払え」

・ライブハウスのオーナーやチケット販売会社に「ライブにFVを出したら損害賠償請求するぞ」などと書いたメールを送りつける

 

 

《争点1:被告Yが本件要請をしたか》

本件要請があったから記事を取り下げた事実がある。

 

《争点2:本件各通知及び本件要請は不法行為に該当するか》

被告の理屈

①    バンドが活動するには被告の承諾が必要

②    バンド名の商標権と排他的使用権は被告にある

行使方法が相当性を超えるものでないなら正当な権利行使なので①と②が事実かを検証する。

 

〈条項の有効性について〉

実演家は、契約期間終了後6ヶ月間、甲への事前の承諾なく、甲以外の第三者との間で、マネージメント契約等実演を目的とするいかなる契約も締結することはできない。

 

・「実演」とは、原告らの活動を広く含むもの(第2条規定)

・専属契約期間中の契約は原則有効

・平成22年以降バンドのメンバーは実演家として精力的に活動している。

・この条項は専属契約終了後の原告らの実演家としての活動を禁止するもの(職業選択の自由と営業の自由を制約)

・制約に合理性がないなら公序良俗に反し無効

・合理性の有無は、被告会社の利益や原告らの不利益などを考えて総合的に判断する

 

被告の主張「先行投資回収のため」

原告らの活動を制限しても被告に利益なし

9年も契約しているので、先行投資は回収できてるでしょう

よってこの条項は公序良俗に反し無効

①    は事実ではない。

 

〈商標権とバンド名について〉

・被告Yによる本件要請や本件通知の際、被告らはバンド名の商標権を持っていなかった。

・バンド名にはパブリシティ権がある。芸名やペンネームと同様に考えてOK。

・『FEST VAINQUEUR』は顧客吸引力を有する。

・パブリシティ権は人格権だから移動しないし、契約書に譲渡する旨の記載もない。

・契約書の第5条は、原告らが被告会社に対してパブリシティ権を行使しないことを約したもの

・第6条もパブリシティ権は関係ない。

 

被告会社は、商標権もパブリシティ権も実演家氏名表示権も持ってないから②は事実ではない。

 

〈本件各通知と本件要請の不法行為該当性〉

被告の妨害行為は全て①、②が事実であることを根拠としていたので、事実でないものを根拠に原告らの活動を妨害したといえる。よって原告らの営業権を侵害する。原告らの名誉・信用を害するものもある。

 

 

《争点3:原告らの損害の発生及びその額》

〈財産的損害〉884,288円

・原告らがバンド名を変えて活動せざるを得なかったことと被告Yの執拗な妨害に相当因果関係あるから、『FV』名義のグッズを作った費用は被告Yが負うべき

・グッズ代116,080円(一人29,020円)

・バンド名を使えなかった期間、1カ月10万円で8カ月と17日で855,268円

 

原告らの請求額は700,000円なので700,000円

 

〈精神的損害〉200,000円

〈弁護士費用〉一人90,000円

合計990,000円×4人=3,960,000円

 

おわり♡

 

 

【オカジの考察】

〈契約終了後の原告らの活動を制限する条項について〉

実演家は、契約期間終了後6ヶ月間、甲への事前の承諾なく、甲以外の第三者との間で、マネージメント契約等実演を目的とするいかなる契約も締結することはできない。

・事務所は契約締結後、広報に多額の費用をかけることになるので、費用を回収する前に契約を解除されると困る事情がある。

・本判例でも、条項の存在自体を否定しているわけではなく、原告らの所属年数と実績を考慮して無効と判断している。

・条項内に「契約締結後3年以内にバンドからの申し入れにより契約を解除するときは」といった文言を入れることも考えられるが、条項が無効になる条件に実績が絡んでいる以上具体的な契約期間を入れても意味がない。

  →なかなか売れないバンドは事務所側から契約切っちゃう??

  →なら『バンドからの申し入れにより』という文言は入れておいた方が良いかも

・この条項は入れてもいいけど、費用を回収できた時点でこの条項が無効になることを説明しておく必要がある。

 

《パブリシティ権について》

・グループ名にもパブリシティ権が発生し、所属するメンバーに帰属する。

・元メンバーには帰属するのだろうか??

  →経歴として名乗る場合は問題ないだろうが・・

 

 

音楽やパブリシティ権についての知識を深めよう。

カバーはオカジーの愛機、ギブソンRDだぴょん♡