運命の糸が紡がれ始めたのは1999年2月22日。
それぞれの家庭で新聞を開いた2人の母親、大泉雅美さん(49)と加藤文恵さん(51)は喜んだ。
「私の赤ちゃん」に子どもの顔があった。「載るのを心待ちにしていた。すぐに切り取って成長アルバムに挟んだ」と応募した文恵さんは振り返る。
妹に同じ名前
一方、我が子の隣で笑う赤ちゃんに目を引かれたのが雅美さんだった。
「沙綾。なんてかわいい名前なんだろう。もし娘が生まれたら同じ名前を付けよう」。
実際に2年後、長女が生まれると「大泉沙綾」と名付けた。
それから約3年後のある日。
清水町の温泉に訪れていた加藤さん家族は、「さあや」と呼ぶ声が耳に留まった。
当時はまだ珍しかった名前で、「同じ名前なんですか」と話しかけると、大泉さん一家だった。
同じ日の新聞に載ったと話が盛り上がったが、当時は携帯電話も普及しておらず、連絡先は交換しなかった。
それでも約15年後、運命の神様は2人を再び引き合わせた。
高校3年生の秋、沙綾さんがアルバイトしていた北海道ホテルに、同じ結婚式の給仕係として短期で拓途さんが入り、1日だけシフトが重なった。
自分の記事をアルバムに入れて飾り、家族で「昔たまたま会った」「妹さんが同じ名前だった」と話題にしてきた沙綾さんは、すれ違いざまに拓途さんの胸元のネームを見てぴんときた。
「新聞に一緒に載った人かも」と思わず話しかけた。
「妹の名前の由来になった人がいる」と聞いていた拓途さんもはっとした。
互いの顔を知った2人は、2年後の成人式でも再会、一緒に写真を撮った。
「ちゃんと知りたい」との思いを募らせていた拓途さんが、インスタグラムでつながっていた沙綾さんを食事に誘った。
2022年10月8日に交際を始め、自衛官で別海で勤務していた拓途さんが土日、帯広に通い、実家が農家の沙綾さんとナガイモ掘りをしたり、ドライブをしたりして、愛を育んだ。「前からいるような感じで、気を使いすぎることもなかった。結婚するんだろうなと思っていた」という拓途さんがプロポーズし、今年5月4日に届けを出した。
23日、思い出の北海道ホテルで挙式と披露宴が執り行われた。
沙綾さんは「私たちが出会った場所。絶対ここがよかった」と話す。
ホテル内の教会で開かれた結婚式で、拓途さんは父の聡さん(49)、雅美さんと力強く握手。
沙綾さんは、父の佳紀さん(53)と一緒に入場した。
妹の大泉沙綾さん(23)と沙綾さんの弟の稜也さん(22)が指輪を運んで手渡した。
披露宴は約160人が出席し、2人の縁に驚きながら祝福した。
「結ばれる運命の2人だったのかな」。晴れ姿の息子を見て雅美さんは感慨深げ。
文恵さんは「縁と偶然が、重なって、重なって、今日の日を迎えたという感じ」と目を潤ませた。
「形に残る記事あったから」
沙綾さんは話す。「会っただけでは記憶は薄れていたかもしれない。記事という形に残るものがあったから、それを何度も見てきたから、あの時、ぴんときたんです」。
色が変わって黄色くなった新聞の切り抜きは、今もアルバムに大切に挟んである。
2人を繋げる、壮大で緻密な神のシナリオに魂が震えました。😭