テロの脅威にさらされたフランス人は、もともと個人主義の強い国民である。皆それぞれが強固な自我を持ち、お互いがそれぞれを尊重する。日本人から見れば、勝手きままでわがままな国民に見えるかもしれないが、腕を組んで同じ方向に向かって行動する瞬間がある。それは、自由が脅かされたと思った時だ。そこが、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と言って、責任を曖昧にするために、腕を組んでしまう日本人とは異なる行動パターンだ。

 

  それが最もよく分かるのは、第2次世界大戦下、ナチスがフランスに侵入した時に起こった〝レジスタンス〟である。なかでも、ナチスに頑強に抵抗したのは、フランス国鉄(SNCF)の職員だった。そうした彼らの活躍を描いた映画が「大列車作戦」(64年)だった。


連合軍がノルマンディーに上陸したことで、慌てふためくナチスの将校(ポール・スコフィールド)たち。彼らはベルリンに逃げ帰ろうとするが、土産にルーブル美術館の美術品を持ち帰ろうとする。それを必死で阻止する国鉄職員(バート・ランカスター)たちの物語。



 映画の冒頭に、ジュ・ド・ポーム美術館の学芸員ローズ・ヴァラン女史(スザンヌ・フロン)が登場する。彼女が書いた「芸術の前線」という原稿が原作になっている。そして、この実在の人物が再度登場する映画が、現在公開中の「ミケランジェロ・プロジェクト」である。



 今回、女史を演じたのはケイト・ブランシェット。彼女は、ドイツ側の動きを監視したり、収奪絵画の目録を作成するなど、フランス側のスパイのような役割を果たした。彼女の情報の下、ナチスに略奪された美術品を取り戻そうとする〝モニュメント・メン〟のグループが結成された。戦争はど素人の美術学者(ジョージ・クルーニー)、後にメトロポリタン美術館館長になる学芸員(マット・デイモン)、建築家(ビル・マーレイ)など7人。彼らのプロジェクトを描く実話だ。


 これだけの題材とキャストならば、どれほど面白くなるのかと期待するが、残念ながら演出の切れが悪い。一体誰が監督したのかと思うと、何と主役のジョージ・クルーニー。


ハリウッドの俳優から信頼厚い彼だからこそ、こんな豪華なキャストが組めたに違いない。しかし、「グッドナイト&グッドラック」(05年)では、アカデミー監督賞を受賞した彼だが、娯楽戦争アクション映画は、誰でもやれるというわけではない。職人芸が必須のジャンルだからこそ、演出は他の監督に任せるべきだった。



 例えば、「大列車作戦」のジョン・フランケンハイマー、「大脱走」(63年)のジョン・スタージャス、「レマゲン鉄橋」(69年)のジョン・ギラーミンのような〝三大ジョン監督〟にだ。あるいは、こうした職人監督が、もはやハリウッドにはいなかったために、自分でやらざるを得なかったのかも…。