月に一度、大スクリーンでオペラ演目のライヴ映像を鑑賞している愛好会です。6月開催日は、いつもの第3木曜日、6月19日です。

内容は、ワーグナー『さまよえるオランダ人』です。

会場は、東急線「元住吉」下車、川崎市国際交流センター、大ホールです。

開場は13時05分、開演13時25分、終了予定17時。

鑑賞は、年12回6000円の会員になっていただくか、

1回鑑賞券1200円、のいずれか。

どちらも、当日、会場にて受け付けますので、

開場時間までに、おいでください。

 

以下は、当日も上映前に解説をしてくださる音楽評論家、竹内貴久雄さんの

演目紹介文です。

 

■ワーグナー・オペラの〈原点〉となった世界を堪能する

 『さまよえるオランダ人』は、ワーグナーにとって青春期の作品のひとつですが、生涯にわたってひたすら追い続けていたテーマ、すなわち「永遠に安息が得られない男性の苦悩を救うことができるのは、女性の自己犠牲による救済のみである」という考えを、表現の中心に据えた最初の作品でもあります。言い換えるなら、ワーグナー・オペラの原点といえるのが、この『さまよえるオランダ人』です。

 ワーグナーが、この物語を発想したきっかけは、1837年、24歳の時のことです。ドレスデン歌劇場での見習い指揮者を経て、楽長となって赴任したバルト海に面したラトビアの首都リガに滞在中、ハインリヒ・ハイネ(1797-1856)が書いた『シュナーベレウォプスキー氏の回想』と題された物語集に収録された「さまようオランダの幽霊船」伝説に強く興味を持ったのです。それは、「このオランダ船の船長は、7年ごとにしか岸に着くことが許されず、その時に出会った女性の献身的な愛を受けることができるまで、洋上を漂い続けるしかない」というものでした。この設定が受け継がれて、数年後にワーグナーによって創作された物語が、オペラ『さまよえるオランダ人』です。

 1839年の暮、野心家で誇大妄想癖のあったワーグナーは、多額の借金を負ってラトビアを逃げ出し、起死回生を狙って海路パリへと向かいました。ところが、途中で激しい嵐に遭遇し、船がノルウェーのサンドヴィーケ港に緊急避難。この時に閃いたのが、この物語です。

パリに到着後、貧困生活の中で構想を進めて台本スケッチを書き上げ、オペラ座の支配人に直接持ち込みました。ところが、この支配人は、ワーグナーにわずかばかりの謝礼金を渡しただけで、このアイデアを別の台本作家、作曲家に発注してしまったのです。

 自作のパリ公演を断念したワーグナーは、自ら10日間で台本を書き上げ、その後、わずか7週間で作曲を終えています。一気呵成に書き進められたのは、青春の閃きの成せる力ですが、この。せっかくの「素晴らしい発想のオペラ」を、他人に先を越されたくないという強い思いもあったからだと考えていいでしょう。それほどに、この『さまよえるオランダ人』の物語は、若きワーグナーを夢中にさせたものでした。

幸い『さまよえるオランダ人』は1843年1月に、ドレスデン歌劇場で初演されましたが、当時の聴衆は、ワーグナーのこれまでと大きく異なった〈新しいオペラ〉の様式が受け入れられず、たった4日間で上演は終わってしまいました。今では考えられないことです。

 ワーグナーが、『タンホイザー』で一流のオペラ作家の仲間入りをする直前、ワーグナーの〈出発点〉となった意欲作『さまよえるオランダ人』が6月の演目です。お楽しみに。