次回は 12月19日(木曜日)1時25分 開演
オッフェンバック作曲 『美しいエレーヌ』です。
以下、当日の解説も担当する音楽評論家、竹内貴久雄さんによる「演目紹介」です。
会場は、東急東横線(目黒線)「元住吉」駅下車の「川崎市国際交流センター」大ホールです。
§ 『天国と地獄』と並ぶ抱腹絶倒の傑作オペレッタ!
パリの町で生まれパリの民衆に育てられたオペレッタは、その創始者オッフェンバックによる『天国と地獄』(地獄のオルフェウス)が最も有名で、それは「ギリシャ神話」のパロディでした。それに劣らぬほどの人気と面白さで知られているのが、同じくオッフェンバックの『美しきエレーヌ』です。これもギリシャ神話のパロディで、有名な「パリスの審判」を含む『トロイア戦争』が元ネタなので、ヨーロッパの人々には馴染み深いのです。
台本は、ビゼーの『カルメン』を書いたアンリ・メイヤックとリュドヴィク・アレヴィの名コンビによるもの。この二人は、パリからウィーンへと飛び火してウィーン・スタイルのオペレッタの大ヒット作となったヨハン・シュトラウスの『こうもり』の原作者でもあるのですから、その面白さは保証付きといってもいいでしょう。
オッフェンバックのオペレッタは、もともと、当時のフランスに蔓延していた政治腐敗に対する批判精神に富んだ「風刺劇」の性格を色濃く持ったもので、それは『天国と地獄』でも鮮明に現われていました。けれども、『美しきエレーヌ』では、そうした「社会風刺」の鋭い攻撃性が抑えられ、ずっと普遍的な「人間喜劇」としての楽しさが前面に押し出されています。このオペレッタから、私たち現代の日本人も、「あぁ、オトコとオンナとは……」と、様々に思いを巡らせることでしょう。名旋律と、躍動感あふれるリズムに彩られた、抱腹絶倒ドタバタ・オペラの傑作です。
§「元ネタ」の神話は、こんなお話
プティアの王ペレウスと海の女神テティスの婚礼が行なわれ、オリュンポスの神々はそろって出席したのですが、その席にたったひとり、招待されなかった女神エリスが怒って宴会の場に黄金の果実を投げ込みます。その果実には「これを、最も美しい女性に」と記されていたため、ジュノ、ミネルヴァ、ヴィーナスの3人の女神が名乗りを上げたのです。お互いに「自分が一番!」と譲りません。そんな彼女たちのいがみ合いに困り果てた大神ジュピターは、トロイアの王子パリスに、その判定を下すよう命じます。
3人の女神は、それぞれ、自分に有利な判定をしてもらおうとパリスに約束をしますが、ヴィーナスのそれは「人間の中で最も美しい女性エレーヌの愛を得る」というものでした。パリスがその約束に飛びつき、エレーヌの愛を勝ちとり、トロイアに連れ帰ったことから、問題がこじれます。エレーヌは、スパルタ王メネラオスの妻だったからです。こうして「トロイア戦争」がはじまり、パリスは戦死。トロイアの国そのものも「トロイアの木馬」として知られる策略で滅亡。エレーヌは元のさやに戻り、平和がよみがえるという物語です。