突然、その争いは始まった。

A国とB国の戦争。

12月の初めの事である。

    

A国は女性、子供、老人以外は

全て戦に駆り出された。

A国の人間であるリューイチも同様に。

   

B国に攻め込むリューイチ。

厳寒の国、B国。

かじかむ手を痛め付け武器を持つ。

しかし、幾日経っても戦は終わらない…。

連日の爆音。

火の海、血の海。

仲間達がどんどん死んでいく。

寒さで手の感覚が無くなっていく。

死、というモノに悲しさも無くなっていく。

「爆風が暖かくて心地良い…」

そんな事を感じたりもした。

しかし、どんな時も娘の事は

忘れはしなかった。

「早く娘に会いたい…」

その事しか頭に無かったのかもしれない…。

  

或る日、リューイチは

白い雪の中に一輪の花を見付けた。

急いでその花に向かった。

「娘の髪に着けたら可愛いだろうな…」   

そんな事を考えていたら

気付かぬうちに、その花の元に

向かっていたのだった。

その瞬間、リューイチの全身が熱くなった。

どうやら撃たれたようだ…。

  

戦が始まり、3週間の時が経った。

其処にはリューイチの姿は無かった…。

   

逃げ出したのだった。

怪我を負いながらも、必死で逃げた。

終わりの無い戦から、必死で逃げた。

泣きながら…。

逃げた情けなさからなのか…?

娘に会えない寂しさからか…?

鼻水やよだれを垂らしながら

泣きながら、必死で逃げた。

逃げた…。   

  

それから数日後。

争いに終止符が打たれた。

   

リューイチはその事を知る由も無かった。  

力尽き、逃亡の途中で

息絶えていた…。

流血で戦闘服は真っ赤に染まっていた。

垂らした鼻水やよだれは

真っ白に凍り、ヒゲを思わせた。

そして、爆風や寒さから守る為なのか

右手には一輪の花を入れた靴下が

しっかりと握られていた…。

  

12月25日のこと。

  

メリークリスマス。

素敵な聖夜を…。