今朝、…否、今昼、毎度のように暑さで目覚める彼。

身体からは滝の様に汗が流れ落ちている。

少ししょっぱいウォーターベッド。

時計を見ると11時55分。

身体を起こし何気に携帯電話を手に取り、眺める。

すると【着信アリ】の文字。しかも10件近く。

着信先は全て実家。8時頃から数分置きにかかってきている。

早朝から何かあったのか…?と、不安気な彼。

留守番電話を聞く彼。

 

『電話下さい』

『これ聞いたら連絡下さい』

『まだ寝てる?』

 

等等、慌てた母親の声が次々に彼の耳に入ってくる。

益々不安な彼の顔。

「親父に何か遭ったのか…?」

気になるが、中々怖くて電話をかけない彼。

“虫の知らせ”

そんな言葉が頭を駆け巡る。

 

暫し悩んだ後、電話の数字を押し始める彼。発信先は勿論、実家。

電話が母親を呼び続ける。

 

《もしもし》

 

意外にも彼の耳に入ってきたのは父親の声だった。

 

「…あ、もしもし」

驚きながらも話をする彼。

「オカンから何回も電話あったんやけど…」

 

《あぁ、ちょっと待ってや!今便所入ってるわ!》

「あ、そう」

《おい、歩から電話やぞ!》

〈もう出るからちょっと待って!〉

《早よせえ、電話代勿体無いやろ!》

〈もう出るって!〉

 

少しは受話器を押さえたらイイのに…。

 

〈もしもし〉

 

数分後、母親の声が…。

 

「もしもし、どうしたん?」

〈サイン頼まれてるから送って!〉

 

……何だ、そんなコトか…。

安堵感に包まれる彼の顔。

 

しかし、芸人になるコトを反対していたくせに勝手なモノだ、と彼。

“虫がいい”

そんな言葉が頭を駆け巡る。

しかし、“虫の知らせ”が“虫がいい知らせ”で良かった。

 

外では、夏の虫達が夏の終わりを告げる為に必死で鳴いていた…。

『もうすぐ秋ですよ!ボク達のコトを忘れないでね!』と鳴いていた…。

 

それに答えるように、彼の腹の虫も鳴いていた…。