過日、彼は電車に揺られていた。環状線に乗り弧を描いていた。
【第56回 上方漫才まつり】出演の為だそうだ。
会場はシアターBRAVA!
大阪城公園駅に着き下車する彼に、一人の少女が近付く。
『久馬さんですよね?』と少女。
「あ、はい…」と彼。
『ひょっとして今日出るんですか?』スーツを持参する彼にそう尋ねた。
「はい…」
『ホンマですか!?今日観に行くんで頑張って下さい!!』
そう言い残して颯爽と駆けていく少女。
あの子の為にも今日も頑張るぞ、等と思っているのか少女の後姿を眺める彼。
そして背筋を伸ばし気合を入れる。
…が、彼の顔が困惑顔に。
視線の先に目をやると、大阪城ホールに入っていく少女の姿が。
立て看板には【ORANGE RANGE】の文字。
何故、少女は彼が出演すると思ったのだろう…。
彼の出演を待っていた少女よ、ごめんなさい…。