近頃の彼は、色々な締切りに追われ連日朝まで執筆を余儀無くされている。

毎朝お天道さんに、「おやすみ」と挨拶しベッドに入る彼。

お天道さんも聞き慣れない挨拶に困り顔である。

 

が、ここ数日、彼は目覚まし時計が鳴る前に目覚めている。

目覚まし時計も、起こし甲斐が無く怒っている。

…のかと思いきや、時計の針が10時10分を差していただけ…。

 

彼が目覚める原因は、彼の家の近所の小学校のようだ。

どうやら運動会が近付いているようで、連日連朝リハーサルが行われている。

 

“早く整列しなさい!”

“出来るまで終わりませんよ!”

“ほら、静かにすれば先生の声は聞こえるんです!”

 

等と、遥か昔イヤと言うほど耳にした常套句が響き渡っている。

「もうそんな季節かぁ」と呟く彼。

 

本当かどうか彼は小学生の頃、良くリレーの選手に選ばれていたんだとか。

今では見る影も無いが、そこそこ足が速くて陸上部に所属していたらしい。

【岸和田の天馬(ペガサス)】と呼ばれていたとか、いなかったとか…。

そして中学時代も陸上部へ。

しかし、矢張り中学校の陸上は小学校と比べモノにならない程厳しかったようだ。

ついて行けず退部を決意する彼。

同じく退部を望んでいた友達A氏と顧問を訪ねて職員室へ。

 

先ずは彼が顧問の許へ。

「あの、もうついて行けそうにないんで辞めたいんですけど…」

『辞めるんやったら辞めぇや』

「…はい」

 

次いでA氏が顧問の許へ。

「あの、もう自分の限界が来たんで辞めたいんです…」

『お前は辞めさせたくない!』

「え…?でも…」

 

職員室の扉の隙間から聞こえる顧問からA氏への説得。

 

…。

 

彼はこの日を境に二度と走らなくなった、のだとか…。

 

久しく馬は歩んでばかり…。

 

 

こんな臆病者だからこそ 本当の事が欲しい

ああ 夢で今日も日が暮れる