過日、彼は尾張での仕事の為、新幹線《のぞみ》に乗車。
チケットを手に座席を探す彼。
座席は【12-A】。
席に着くと其処には小父さんの姿が。
「最近の椅子はデザインが変わったのか?」と思ったがどうやら違う…。
「あの~」と問い掛けると、『あ、退きます!』とその伯父さんと隣の小母さんが席を立つ。
そして、12-DとEに移動する夫妻と思われる二人。
「大分席が遠いのなら分かるが何故この席に座る…。」等と思考しながら席に着く彼。
が、席が暖かくて気持ちが悪そうだ。秀吉にでも成ったつもりか…。
こんな人の温かさは嬉しくないモノだろう。
すると彼の隣に腰を掛ける気配が。
この男性も席を乗っ取られていたのか…。
新幹線に揺られる彼。
暫くの時が過ぎる。
『何処まで行くんですか?』と隣の男性が口を開く。
突然のコトに戸惑うが「あ、名古屋です…」と答える彼。
すると『しゃあないな~』とその男性。
「な、何!?しゃあない?どういうコトだ…。付いてくる気か??」
関わらないでおこう、と狸寝入りを決め込む彼。
が、何時の間にか本当に夢の中へ。
どれ位の時間が彼の中を過ぎたのだろうか。
彼は囁きの中、目を覚ました。
『新幹線の便所揺れる。新幹線の便所揺れる。新幹線の便所揺れる。
新幹線の便所揺れる。新幹線の便所揺れる。新幹線の便所揺れる。
新幹線の便所揺れる。新幹線の便所揺れる。新幹線の便所揺れる…』と囁く声で…。
ふと横を見るとその男性から発せられていた。
『新幹線の便所揺れる。新幹線の便所揺れる。新幹線の便所揺れる…』
止める気配が無い。
『新幹線の便所揺れる。新幹線の便所揺れる。新幹線の弁当揺れる…』
あ、噛んだ!
『…』
口を閉ざす男性。
静寂が車内を通り過ぎる。
其処へ切符の点検に現れた車掌。
男性の切符を見、注意する車掌。
そそくさと席を立つその男性。
「お前の席ちゃうかったんか~~~い!!!」
車内に轟く彼の叫び。
その一瞬、新幹線《のぞみ》が《こだま》に変わった、とか。