”アメリカ人” | I Love キューバ!!

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時々キューバについて熱く語りたいと思います。


 

アーサー・ビナードさんはアメリカ人です。

とは言うものの、日本人以上に「日本人」とも言えます。

詩人であるがゆえ、日本語をこよなく愛して下さり、日本を

愛するがゆえ日本の矛盾したおかしなところをバシバシ、

ユーモアを持って指摘してくれます。

彼のエッセイ集には、日々の些細な出来事を顕微鏡で見る

ような楽しいものが多いのですが、その中に時々、ぐっさり

胸を突き刺すように現実を突きつけてくるものがあります。

 

 

 

 

 

日々の非常口 (新潮文庫)

 


今日は、この中からひとつ御紹介したいと思います。

 

 

 

 

 

 

刑務所産業の果実

「南部の木々は、奇妙な実を結ぶ」と、ルイス・アレンの詩"Strange Fruit"は始まる。白人の集団リンチを加えられ殺された黒人を、果実にたとえた名作だ。木の枝にかけられた首吊り縄から、遺体はぶら下がったまま、風雨にさらされ、烏につつかれ、太陽に照りつけられて、やがて地面に落ちる。「奇妙な苦い特産品だ」

1882年から1950年まで、米国で白人の手によって、3436人もの黒人が私刑にかけられて殺害された(記録が残らなかった事件はどれほどあったか)。その黒人たちが犯した「罪」はといえば、選挙に立候補したり投票したり、事業を興したり、なんらかの形で自らの人権を主張したことだ。20世紀の後半から、「私刑事件」は少なくなったが、それでもstrange fruitという比喩は今もなお、米国社会の仕組みをえぐり、見事に言い表している。「果実」が樹下から、刑務所へと移されただけだ。

現在、アメリカの刑務所に収容されている人間の数は、200万を優に超えている。国民の138人に1人が、受刑者だ。そして総人口の12%程度を占めている黒人は、刑務所の人口の半分なのだ。成人の黒人男性の服役率が4.5%に迫り、20歳代黒人男性に限定すれば、三割近くが囚人となっているか仮釈放中か。

Prison Industryという奇妙な言葉が、メディアでごく普通に使われ、その「刑務所産業」が進出するのは十中八九、白人が多く住む地方だ。工場が閉鎖されたり、農業が立ち行かなくなったりしたところへ、刑務所建設の計画を持ち込む。建設会社と刑務所運営の企業が、うまい汁の大部分を吸うが、地元には税金の分け前と雇用先の確保というメリットがある。しかも不景気に強い産業だ。

黒人が多く住む都市部で、警察はなんでも厳しく取り締まり、次々と「果実」をもぎとる。それが刑務所に送られると、税金も一緒に白人の地域に流れる。働き手をさらわれた黒人社会は、逆に損害を被り、貧困が犯罪の増加に拍車をかける。待ってましたと警察に、またもぎとられ、刑務所へ。

奇妙ではない。計算ずくの収穫だ。