携帯電話のアラームが鳴り響く

また今日も変わらぬ一日が始まる


シリアルだけの味気ない食事を済ませ

自転車に飛び乗る


夏も終わりに近づき

肌に感じる風はもう秋を感じるほどになった

ここの蝉の声もあと少しか、などと感傷に浸りながら

川沿いの並木を走る


膠着した日常の中に

季節という変化が織り込まれる

何事にも無関心な自分に

些細な変化を感じ取る心の動きがあったことに

すこし安堵し、またそんな自分がとても奇妙に思えた


並木から逸れ、長い坂道を上りきると

大学の厳しい鉄門扉があり

その先の附属研究所に僕の職場がある


職場といっても

僕はいわゆるポスドクというやつで

学部時代から世話になっている教授の下で雑務を行っているだけだ


研究室に着くと、既に准教授が着ていて

「明通君、悪いんだけど、手伝ってくれないかな

2週間で論文のデータを出さなければならなくなってさ」

と僕の姿を認めるなりそう言った

余分な仕事が増えるのには辟易したが、この世界で生きていくためには論文に名前を載せることとそれ以上に上司の歓心を買うことは重要だ

「いいですよ」

僕は心中を悟られないように首を縦に振った