昨日(2021/3/18)読み終えた書籍が考えさせられる内容でしたのでご紹介します。

『治したくない ひがし町診療所の日々』斉藤道雄 みすず書房 2020年5月初版

 

北海道浦河町で精神科診療所をしている医師とソーシャルワーカーを含めたスタッフのルポタージュです。

この町には、べてるの家という統合失調症患者ら当事者が主体となって活動している社会福祉法人があり、当事者研究の先駆的な取り組みをしている地域であることでも有名です。もともとは浦河赤十字病院の精神科医師やソーシャルワーカー、看護師、そして患者さんたちが始めた取り組みですが、日本中で注目されています。

今回紹介する書籍では、ここで活躍する精神科医とソーシャルワーカーや看護師と精神疾患患者の営みが描かれています。

 

私が以前勤務していた病院が精神科縮小の方針であることを、福祉系大学院の教授の先生にお伝えしたところ、この本をご紹介いただき、手に取りました。

 

この浦河町の診療所で展開されている精神疾患患者への取り組みは、徹底的にライフモデルであり、それはその最先端なようでいて、実はセツルメント運動の頃のソーシャルワークの源流であるようにも感じるものでした。

制度や専門家が紋切り型に解決を目指すのではなく、地域の取り組みとして患者さんとともに、多くのひと(患者さん自身、他の患者さんも含め)とともに笑いと共に考え続けていくという地域づくりをしています。

ここで活躍しているソーシャルワーカーは、コミュニティソーシャルワーカーの理想にも見え、しかし、一方で自己犠牲や自己満足で感情的なスタイルに思えたりします。

 

きっとそれは、読み手である私たちソーシャルワーカーの力量によって、感性によって変わるのだと思います。正解だとか不正解だとかではなく、深さや広さや温度など断面によっていかようにも捉えられるソーシャルワークが描かれている、そんなルポルタージュでした。

 

この書籍は、登場人物たちの取り組みなどの内容にのみ固執するのではなく、読み手が有しているソーシャルワーク像を浮かび上がらせるものかもしれません。

私は、いつのまにか自分がソーシャルワークとしての範囲を規定していることに気づかされつつ、感情的で無計画な取り組みに批判的にもなり、しかし、羨望のような感情をもちました。

みなさんはどんな思いを得るのでしょうか。

 

通常の三倍