現在の母子を取り巻く状況は、少子化の進行・晩婚化・未婚率の上昇・核家族化・育児の孤立・子どもの貧困・母子保健領域における健康格差が挙げられます。その状況において、妊娠した女性の中には「予期しない妊娠」「継続を希望しない妊娠」「誰にも相談できない妊娠」など様々な思いを抱えた方が多くいます。
第15次児童虐待報告(平成29年4月~平成30年3月までの心中以外の死亡事例検証)において、0歳未満の虐待による死亡事例は52人中28人(53.8%)、0歳の中でも0か月死亡が28人中14人(50%)となっています。主たる加害者は実母(48.1%)、その実母抱える問題に「予期していない妊娠/計画していない妊娠」が30.8%と報告されました。
そのことからも、現在周産期領域の医療機関において、妊娠期から出産、出産後の支援の必要性が重要になってきています。
今回は周産期領域における支援について少しお話をしたいと思います。
妊娠・出産のパターンには、①待ち望んだ妊娠 ②思いがけない妊娠 ③望まない妊娠と大きく3パターン分かれます。
②の思いがけない妊娠は、妊娠中に出産を待ち望む妊娠へと変化する可能性があります。妊娠期にどのような支援を受けたかによってその後の女性の生き方や子どもの未来が大きく左右されます。
③の望まない妊娠は、他者に知られたくない妊娠であり、自分も子どももどうなってもよいと思っている方もおり、母児の安全な出産と適切な養育を目指す支援が必要となります。
①の待ち望んだ妊娠であっても、出産前後で精神的に不安定(産後うつ)になる母親も多く、産後うつ病により乳幼児の安全確保への配慮や対応が十分できなくなり、母親の精神面の支援及び育児支援が必要となります。
周産期における支援者としての姿勢について
・思いがけない妊娠、望まない妊娠においては、その女性には様々な事情(背景)が隠れています。どんな事情であってもまずは受け入れる姿勢であることが必要です。相談してくれたことをねぎらいましょう。
・様々な隠れた事情や置かれている環境(状況)を追い詰めすぎない適切な感覚で情報収集を行いましょう。
・偏見を持たずに相談者を受容し、「産む・産まない」の選択を強要するのではなく、「あなたのことが心配なので」とI messageを伝えましょう。
・対応を指示するのではなく、これからの人生を見据えた主体的な選択ができるように支援していきましょう。
周産期における支援について
・匿名でも相談できる「妊娠SOS」ダイヤル
妊娠をした女性の中には誰にも相談できない方がいます。各県には匿名で「思いがけない妊娠/望まない妊娠」などの相談できる窓口があります。メール、電話対応などあり助産師などの専門職が対応しています。
・妊娠期から早期対応
妊娠届提出の際に一人一人面接にて保健師が情報収集を行い、支援を必要とする妊産婦に対し、妊娠期から子育て期にわたる切れ目ない支援を提供することを目的に各自治体に「子育て包括支援センター」が設けられました。 支援を必要な場合は了解を得たうえで出産する医療機関と連携を図り、出産後の育児まで支援を行います。
・医療機関においての支援
妊娠初期に助産師やMSW、心理士が面接を行い、支援を必要とする妊婦を早期に把握し、継続して支援を行う。市町村の関係機関と情報共有を行い連携を図り支援を行い、出産後の支援体制などを妊娠期より話し合う。産後三日目、2週間検診時、一か月検診時にEPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)で出産後の精神状態を把握する。
等様々な支援が行われています。
平成28年10月1日の児童福祉法の一部改正により、支援を必要とする妊婦等を把握した医療機関や学校などは、その旨を市町村に情報提供をするように努めるものとする(児童福祉法第21条の10の5第1項)と定められました。
周産期におけるMSWの役割
・妊娠期に悩む妊婦に対し、様々な隠された事情を受け入れ、問題に対する背景の把握、妊娠期に継続的に支援をしていくこと。
・相談者の持つ「SOSを出す力」を見逃さず、一緒に将来(出産後の子どもとの生活)を見据えた生活に向けて支援をしていくこと。
・一職種で抱え込まず、主治医、助産師、心理士と連携を図り、一機関で抱え込まず多機関(市町村など)との連携を図ること。
が挙げられます。
しかし、出産後の生活において、「子どもの権利が守られない」可能性があると思われる場合は、多職種や他機関との情報共有及び児童相談所との連携も必要となることもあります。
そのためにも、児童福祉法及び児童虐待防止法の理解を十分に行い、日頃より関係機関との連携を密にしておくことが必要です。
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