パンラ国物語 第5巻 終章 その10 完
その10
華やかなドレスとエマがいなくなると、辺りは月とその明かりに照らされたタキシードだけになった。
遠くからは相変わらず、里の者達の喧騒が響いてくる。
「賑やかだよな。宴会となるといつもああなのか?」
「滅多にはないが、こういう大きな行事の時は、羽目を外して皆騒ぐ。大頭のお許しが出ればなおの事」
「アーカスやセインも酒がたらふく飲めると言っていたしな・・・。なあ、キジュ」
「はい」
「さっき、パンラ国は北の進撃を押さえ、大勝利したと言ったが、事実は少し違う・・・」
キジュは眉毛一つ動かさずに、王子の言葉を待った。
「戦いが有利だったことは確かだ。しかし、戦いの最中に、突然、相手の指揮官が倒された。それにより、一気に我が国の勝利が決まった。だが、後々聞いたところによれば、パンラ国の指揮官がどんなことを命じたことはないし、また、相手を倒したと言う兵士もいなかった。妙な話だろ?団長に会って直接聞いたんだが、相手は何か焦っていたようにも思えると話していた」
「その死んだ北の指揮官というのは?」
「北の国では知らない者はいないという、王の右腕といわれていたものだ。相当な使い手だったらしい。それがこうもあっさりと消されたとなると・・・」
「北の国で何かが動きが起きつつあると・・・?」
「国の内部で、闘争が起きているのかもしれない。それで暗殺された。そう考えた方がつじつまが合う」
「北の動向に不審な動きがあったら、知らせよう」
「そうしてもらえると助かる。それと、キジュ。すまないが、明日皆に知られないようにここを出たい。この服しばらく借りるが構わないか?」
「それはいいが、どこかへ行くつもりなのだな?」
王子の性格からして、おとなしくそのまま城に戻るはずがない。
「西へ行ってみようと思っている。北がああいう行動に出たからには、西に何か変化があってもおかしくはない。こちらも何かあれ直ぐに知らせるよ」
「了承した」
夜空で煌々と明るく出ていた月が、時間と共に少しずつ欠け始めると、二人はまた式場へと戻っていった。
そして、数時間後・・・。
辺りに靄がかかる頃、
クリークとランディは朝の光りを頼りに馬に乗り、エビネの里を後にしていた。
キジュから教えられたとおりに行けば、もうすぐ、パンラ国の北側に出るはずだった。
今は、里にきたときとは違い、目隠しはないし、ついて来る者もいない。
パンラ国とエビネの里の協定により、その必要がなくなったのだ。
二人は清々しい気持ちで、森を駆け抜けていった。
ようやく朝日が、森の中腹を明るくする頃、二人は一気に森を抜け出していた。
目の前に鮮やかな草原が広がり、朝露でキラキラと輝いている。
先を行くクリークに、ランディは速さを調節しながら横へと近づいていった。
「いいのか?あの護衛官の三人は置いてきて」
「ああ。きっと、クロス護衛官に言い含められているからな。必ず、王子を連れて帰るようにと・・・」
「説得できなかったとなれば、付いて来るだろうしな」
「ああ。かといって、みすみす分かりましたと、城へ帰るわけにも行かない。あいつらだって、そんなことで悩みたくはないだろうし。俺たちがいなければ、どうしようもないだろう」
「帰る気はさらさらないんだな?」
クリークは視線を送り、当たり前だと言わんばかりに笑う。
「ナディアには黙ったままでよかったのか?」
「また会える。どっちにしろ、正式にパンラ国へ来ることは決まっているらしいからな。そのうち会えるだろう。それに、俺がどこにいるのかはナディアには一目同然だしな」
「そうか・・・」
しばらく馬を走らせていた二人だったが、いきなりランディが声を上げて、速度を落とし聞いてきた。
「おい!クリーク!今日は何日だ!?」
「ん!なんだ、いきなり!十五日だが、今日がどうかしたのか?」
ランディが慌てた様子で、手綱を引いた。
「忘れていた!!クリーク、城へと戻るぞ!」
「おい!冗談じゃない。俺が今、城へと戻って見つかりでもしてみろ。外に出るのは難しくなる」
「だな。ならば一人で行かせてもらう!」
「ランディ!急にどうしたんだ?」
「大事な用を思い出した。どこかで待っていてくれ。すぐに追いつく!」
言うなりランディは馬を城の方へ向けると、一目散に走りだした。
「おい!ランディ!!」
訳を聞く間もなかった。その後ろ姿に大声を投げつけた。
「ランディ!お祖母様の所で待っているから。終わったらこい!!」
「分かった!!」
すでに遥か遠く聞こえる声に、クリークはため息をついた。
「何を考えているんだ、ランディの奴。一人になるなと言っておきながら、こうも簡単に俺を一人にしやがる・・・」
まあ、確かにここ三か月の間、何事もなく過ごしている。
事実この俺も、何かが起こる様な気がするのかといえば、そうでもない。
それにしても・・・。
クリークは馬のジンを走らせながら、ここ数カ月間のことについて思い起こしていた。
おもえば森で殺されかけたことから、始まったのだったな。
城を追われるとはさすがに思わなかった。巫女島に泳いで行きついたりもした。
いつ死んでもおかしくはないことばかりだった。
それが、今こうして生きている。
生きていることがこんなに嬉しいなんてな・・・。
幸せそうなエマの結婚式を見たせいかもしれない。
結婚式の様子をお祖母様にも話してあげよう。
きっと喜ぶだろう。
薬を作るときに会ったエマを、覚えているかは疑問だがな・・・。
クリークは、嬉しそうに何度も聞くであろう祖母の顔を想像しながら、軽やかに馬を走らせていった。
で、その少し後のこと。
パンラ国のシス城にある嘆きの塔では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。
パーキンを刺そうとして捕まった元刑務官の釈放の日の今日。
解放された後に何者かに殴られたのだ。
元刑務官はそのまま失神してしまったため、意識を取り戻すまで犯人が分からなかったという。
勿論、その犯人というのはランディのことに他ならないのだが・・・。
そして、
クリークがその事実を知ったのは、西の国から城に戻ってきた数十日後のことであった。
完
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
こんにちは。
きゅりあです!!
やっと、パンラ国を
終わることができました。
寄ってくださった皆様、
本当にありがとうございました
今日から、コメント欄といいね!を
開けておきます~。してもしなくても、大丈夫ですよ。
お返しできるかは
わかりませんが
それでも、よければ・・・
では、また。
素敵な一日を・・・
きゅりあ