パンラ国物語  第5巻  終章 その6

 

 

 

その6

 

エビネの里の者にとっては、話しに聞いていたクリークの光りを目のあたりに、さらには騎獣というドデカイ鳥に驚き、その後は滅茶苦茶に荒らされた畑が無残に広がっていたのである。無理もなかった・・・。

 

その放心状態から最初に我に返ったのは、セインだった。

 

「おい!皆、何ボーっとしてんだ!畑がこのありさまなんだぞ!誰か行って人を集めて来い!」

 

先程から来て、一部始終を見ていた大頭に、セインが近づいていく。

 

「大頭、キビマメの収穫は近々でしたが、こうなったからには収穫してしまおうと思うのですが、どうですかね?」

 

「いいだろう、そうしてくれ。ついでに、結婚式の料理に出そうじゃないか。キビマメを使うようにと厨房の者にも伝えなさい」

 

「はい!」

 

セインは、早速近くの者に指示を出し始めた。

慌ただしく人の行き来が始まる。しばらく結婚式までには時間がかかりそうだから、クリーク達には空き部屋で待ってもらうようにと言ったのだが、とうのクリーク本人がそれを断った。

 

なんと、クリークがキビマメの収穫を手伝うと言い始めたのだ。セインが止める間もなく、腕をまくり上げると、エビネの者に加わって慣れた手つきで収穫をし始めた。ナディアにいたっては、これもまた巫女島でも豆を植えていたこともあり、喜んでクリークの後をついていった。

 

 

 

呆れ顔で、セインが頭をかいた。

 

「おい。いいのか、ランディ?」

 

「好きにさせてやれよ。懐かしいんだろう。あいつの育った村では、こんなことはよくやっていたらしいからな」

 

「そうなのか。まあ、あいつがこうなるまでには、色々あったとは聞いていたんだが。しかしなあ・・・」

 

センイとしては、パンラ国の王子に収穫の手伝いをさせるのはどうかとも思ったのだ。どうしたものかと唸っていると、ランディから頼みがあると言い出した。

 

「あの様子じゃ、着ていた服は汚れるだろう。大したものでなくていい。着替えの服を頼みたい」

 

「服たって、りっぱな服なんぞないぜ!俺たちと同じものじゃあんまりだろう・・・」

 

「いや。それでいい。あいつは見世物なんぞ、なりたくないんだろうよ」

 

「だがな・・・」

 

「セイン。気がついてないか?さっきまでクリークを見るエビネの里の連中の目がおかしかった事に・・・」

 

「それは・・・」

 

気がついてないわけではなかった。

 

「光りの者だということは、皆、承知している。だが、いずれ遅かろうがクリークにああいう力があることは知れることだぞ」

 

「聞くと見るのとでは、大違いだぜ、セイン。あいつが里の者と一緒にああすることで、少なくとも遠目からみる存在ではなくなっている。意図してやっているかどうかは知らないがな・・・」

 

クリークが里の者達と、協力しながら収穫をしている姿は何とも楽しそうだった。ときに笑い合いながら収穫している姿を見ると、服こそ違えども、他の者からみればエビネの里の者にしかみえないだろう。

 

「さてと、俺もそろそろ手伝ってくるか」

 

「お前も行くのか?」

 

「ああ。手伝わなかったら、後であいつに何と言われるか、たまったもんじゃない」

 

「お前も大変だな」

 

「侍従も楽じゃない・・・」

 

二人はお互いに顔を見合わせて笑い合った。

その後、ランディはさっき言った通りに畑へ行き、セインはセインで式が少し遅れることを各方面へと伝達に言った。

 

そして、式の用意が整うと同時に、程なくキビマメの収穫が終わると、クリーク達はすぐに質素なテントばりの部屋へと案内された。

 

 

 

 

セインが用意してくれた服に着替えていると、もうすぐ式が始まるらしいとの知らせが届き、早速、式場へと足を運ぶことにした。

 

式にはアーカスが案内役をかって出てくれた。

アーカスは式場に案内しながら、クリーク達が着替えた服を見て、何とも言えない気持ちになった。

 

「悪いな。そんなものしかなくってな。だが、ランディは別として、二人は似合っているな」

 

「ナディアはともかく、俺は育ちがわかるってもんだろう?」

 

クリークが屈託もなく笑うと、アーカスが慌てて小声で言う。

 

「おいおい、王子。育ちはまあ、ともかくとして、お前は正真正銘の王子なんだからな」

 

「だが、俺はこっちの方が落ち着く。服が汚れやしないかとか、気を使わなくていい」

 

すると、ランディが意外そうに呟いた。

 

「へえー。お前がそんなに服に気を使っているとは知らなかったな」

 

「ランディ。お前、気がついてなかったのか?」

 

「ああ。まったくな・・・」

 

「まったくって。お前なあ、それは侍従としてどうかとおもうぞ」

 

「そうか?さっきまで、城で新調した礼服を、ものの見事に泥まみれにしていたようだったがな・・・。まあ、本人があれで汚れていないと言い張るなら、俺には何とも言いようがない。そこまで侍従としては口出しできん」

 

「ランディ・・・」

 

二人のやり取りを聞いていたナディアが、クスクスと笑っている。

そんなナディアの様子を見て、アーカスはホッとした。

どうやら、吹っ切れたみたいだな。アンダン島にいたときのナディアには見られなかった柔らかさだった。

 

「ナディアちゃん。もう巫女島は落ち着いたのか?」

 

「ええ。皆さんのおかげで、建物の修理ももうすぐ終わるところです」

 

「あれから、三か月も経つんだからな・・・」

 

「はい。白華宮が落ち着きましたら、ここ、エビネの里の方々、並びにパンラ国の方々にお目にかかり、アンダン島の白華宮を司る巫女の一人として、いずれ正式なお礼を伺いに参りたいと思っています」

 

「ほう。ナディアちゃんも、一端の巫女の言葉遣いをするようになったのか・・・。さてはユパに仕込まれたな」

 

アーカスが覗き込むと、ナディアが笑って頷く。

 

「そうなのよ。ユパ様ったら私がちゃんとできるまで許してくれないの」

 

「ははあ~。巫女も大変だな」

 

そんな雑談をしながら歩いていると、いきなり大きな広場へと出た。

式場といっても、簡素な形のもので所々の木にきらびやかな飾りがあるだけで華やかさには欠けていた。

 

 

 

しかし、クリークが持ってきたパンラ国の花々が、広場の前の中央に飾りかけてあり、そこだけが光りを帯びたように輝いていた。

 

「こっちだ!」

 

アーカスに付いて入ると、すでに何人かのエビネの里の者たちが集まっていて、皆、それぞれに飲み物を飲みながら話をしている。

広場にはランダムに置かれたテーブルが置いてあり、その上に見たこともないような様々な食事が用意されていた。

どちらかというと、北の国で使われている食材が多かった。

 

 

 

なんともいえない、いい香りに、クリーク達は思わず笑顔になった。

 

 

その7へと続く