パンラ国物語  第5巻  終章 その5

 

 

 

その5

 

 

クリークと騎獣が動かなくなってから、息を殺し眺めていたランディは、途中でクリークの手から光りが現れてくると、知っていることとはいえ、驚きを隠せなかった。まわりのエビネの村人からも、どよめきが起こる。

 

 

 

 

 

(後で、ややこしいことになりそうだな・・・)

 

ランディが懸念していると、アーカスが目を見張りながら近づいてきた。

 

「おい。おい。これが、光りの力ってやつか?宝剣の時も驚いたが、こいつもなかなかだな」

 

「アーカス。この事を村の連中にはなんと説明する?」

 

「クリークが光りの者だということは、皆知っている。もちろん、王子だということもな」

 

「知っている?」

 

「こっちだって、闇をただ眺めていたわけじゃないぜ。皆にこの事を話さないわけにはいかない。村でも対策を考えなければならないからな。言っていただろう?王子のやつが、もう一人いると・・・」

 

「あ、ああ」

 

クリークが初めて襲撃に合った時に聞いたらしいが、あの婆さんには兄がいるらしい。

 

「今のところ城では、目立った変化はないのか?」

 

「ああ。ここのところ、パンラ国は気味悪いくらいに平和だ。気になるのは北の動向だな。あのタイミングで侵攻を仕掛けてきた。何か魂胆があるのではないかと勘ぐりたくなる」

 

 

 

「だな・・・。ちぃとばかし、エビネの方でも今、探りを入れている最中だ」

 

二人で話していると、ナディアがこちらへと走ってきた。

 

「ナディアちゃん。駄目だ、あぶねえ!そっちで待っていろ!」

 

アーカスが押し止めると、ナディアは笑って「大丈夫よ!ティアラの声がするの。ティアラ!」

 

その明るい声に、答えを見つけるべくクリークへと視線を移すと、光りを放っていた手の平から少しずつ光りが消え始めていた。

 

「お!どうやら、ナディアちゃんの言うとおりだな。終わったみたいだぜ」

 

「そうらしい」

 

押し止めていたアーカスの手を離れると、ナディアは一目散に、ティアラのもとへと走っていった。

 

「ティアラ!!」

 

騎獣の瞳に、今まで探しても見つからなかった、ティアラの痕跡を見つけ、白い騎獣へと抱き付いた。

そのナディアの肩にクリークが近づき優しく包む。

 

「もう、大丈夫だ。心配ない」

 

ナディアが顔を上げ、クリークを見る。大きく頷いてやると、みるみるうちにその目に涙があふれた。

 

 

 

 

 

 

そのあと、騎獣の躰に顔を埋めながらナディアは泣いていた。だが、しばらくして顔をあげると「もう、嫌だ!」と、叫んだ。

クリークはわけが分からずに、戸惑う。

 

「ん?なんだ?どうしたんだ、ナディア?」

 

「ティアラってば、せっかく会えたのに、躰からすぐ離れろっていうのよ。信じられない!」

 

 クリークが騎獣を見上げてみると、クスクスと笑い声のようなものが頭の中から聞こえてきた。騎獣が笑っているのだと、分かった矢先、その声が言葉に変った。

 

―クリーク、また会えてうれしいわ。こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけど、あなたが無事で本当に良かったと思っているの・・・―

 

(俺こそ、やっと本物にティアラに会えて、嬉しいよ。まさか、こんなことになっているとは思っていなかったからな)

 

―ええ。私も・・・。自分がいかに幼いかを思い知らされたわ。あの時、躰の不調はわかっていたの。闇を前にして、私はどうしてか足が竦んでいた。でも、認めたくなかった。騎獣とあろうものが竦んでいるなんて・・・。闇を倒したあの光りでなんとか躰は動くようになったものの、帰ってから一段と酷くなって・・・。私が思うに大巫女の躰の中にあったモノは、闇の者とは違うものだった。闇の力なら私達騎獣にも跳ね除ける力がある。でも、できなかった。あれのせいだわ。闇が持っていた剣。あれはたぶん、この世界のモノではないわ・・・。あ、ちょっと待って!ナーディア!今、クリークと話しているんだから。クリーク、悪いけど話はまた帰ってからってことでいいかしら?私、今、猛烈にお腹が空いているのよ。この何か月間、まともに食事をとっていなかったらしくて・・・。それに、何?この躰の汚さ!どう?酷いでしょ!匂いまでして・・・。ああ!もう、我慢できない!!-

 

汚さや、匂いに敏感な騎獣なんてな。

それに露骨に嫌そうな声をして、躰を震わせている騎獣がなんともおかしくて、クリークは笑ってしまった。

そんな様子を見て、ナディアがここぞとばかりに聞いてくる。

 

「クリーク、何笑っているの?ティアラはなんだって?で、どうして二人だけで話しているのよ?ねえってば!?」

 

「腹ごしらえをしてくるってさ。猛烈にお腹が空いているらしい」

 

「え?お腹が・・・?」

 

二人で話している最中に、いきなり騎獣が翼を広げ始めた。伸びをするように高々と広げると危ないから離れてて!と伝えてきた。

 

クリーク達が離れると、騎獣は遠慮しながら広げていた翼を目一杯伸ばし、羽ばたき始めた。

畑の土が宙を舞いはじめ、誰もが砂埃に目を細める中、巨大な騎獣の躰は狭いであろう木々の間をすり抜け、空を目指し飛び立っていった。

 

騎獣ティアラは飛びながら、

―ナーディア!生まれて初めての結婚式を楽しんでいらっしゃい。必ず帰ってくるから。後でゆっくり話しましょうー と、そう言い残して、去っていった。

 

しばらくの間、皆、空を見ながら放心状態だった。

 

 

Simplog

 

 

エビネの里の者にとっては、話しに聞いていたクリークの光りを目のあたりに、さらには騎獣というドデカイ鳥に驚き、その後は滅茶苦茶に荒らされた畑が無残に広がっていたのである。無理もなかった・・・。

 

その6へと続く