パンラ国物語 第5巻 終章 その4
その4
エビネの里の者達が見守る中、なるべく畑を荒らさぬよう、クリークは騎獣へと近づいていった。
さっきまで、おとなしくしていた騎獣だったが、クリークが近づいて来ると再び奇声を上げて威嚇してきた。
そんな騎獣とは違い、クリークは不思議と落ち着いていた。
静かに目を閉じて、感覚で騎獣を捉える。
手に幾つもの反発するものを見定めると、クリークは騎獣に向かい話しかけてみた。
(・・・聞こえているだろう?俺の声が。俺の名はクリーク。お前は誰だ?)
話しかけた途端に、騎獣が苦しそうに奇声をまた上げた。
もしかして、この騎獣。未だに闇の力と戦っているのかもしれない。しかも、あのティアラの気とはまるで違う気の流れだ。物凄く強い感じがする。
クリークはかざした手の平に力を加えた。
初めてしたときと同じように、それは内側から熱を帯び始まった。
粉にしたような光りがまわりに現れ始めると、やがて、何本もの光の帯に変り、ヒラヒラと舞い踊るようにまわりに漂い始めた。
すると、明らかな変化が騎獣に起こった。さっきと同じように騎獣が驚いているのだ。
しばらくすると、ティアラとは違う力強い声が聞こえてきた。
―そなたが、なぜその光りを持っているのだ!?光りの者はすでに死んだはずだ。闇の王、ザラギラスを倒した後に・・・―
(それは、もう何千年も前のことだ!)
ー何千年も前のことだと?・・・そうか。割れはこの騎獣の中にいたのだったな。すっかり忘れていた。では、そなたは新しく生まれた光の者か?ー
(そうらしい。これだけ光りの力が使えるのだから。もう、光りの者だと認めないわけにはいかないな)
―そうか。では、闇がまた現れてきたということか・・・。成る程。失礼をしたな。光りの者クリークよ―
(あなたが何者か聞いても構わないか?)
―むろんだ。我が名はカフス。光りの者と共に闇に立ち向かった騎獣クライガーだ。この騎獣の先祖にあたる者だ ―
(先祖・・・?)
騎獣カフスは自分たちの騎獣クライガ―について簡単に説明をしてくれた。クリークは新鮮な驚きとともに、様々な事を知る機会になった。
(では、すべての先祖の意識を受け継ぐことにより、過去に何があったかすべて知っているということなのか?)
―さようだ。人間はそれを共有することができないが、騎獣にはそれができるのだ。ごくたまに人間にもできる者もいるが、その数は僅かなもの・・・。まあ、人間の場合、よく見えることで、人を騙したり、お金儲けの為の道具にしか使わぬものが大半だがな・・・―
(騎獣が絶滅したのは、人間が原因だと聞いた・・・)
―光りの者が亡くなったことにより、支えていた何かが崩壊していったのだろう。闇が残していった、負の遺産かもしれぬ。いつからか、騎獣を食せば病気も治るという噂が広まっていった。それにより、我らは捕食されるようになってしまった。巫女は人間と我らとの間に立ち、仲立ちをしてくれていたが思うようにはいかなかった。やがて、騎獣の仲間から人間を襲うようなものが現れていったのだ。先ほど、ここの者達を威嚇したのはそのためだ。すでに体に中にその意識が入り込み、躰自体が反応してしまったのだろう。このを躰を持つ者の意識がハッキリしていればまだ防げることだがな・・・―
(今、この躰の持ち主、ティアラはどうなっている?)
―ティアラ、こやつの名か。今、深いところで眠っておる。闇が・・・いや、闇のようなものといったほうがいいか。それが、この躰に巣作っているので、精神に及ばないよう逃げているのだ。こやつはまだ、生まれたばかりの子供だからな。跳ね除ける力があまりない。代わりに我が出てきたのだ ―
あのティアラを子供だというカフスに、なんともいえない巨大さを感じながら、クリークはその闇を取り除くことを申し出てみた。
―成る程。光りの者ならば、それもできよう。だが、我が消える前に、一つおぬしに頼みがある。人間に我らの躰に力がある等というでたらめを教えないようにしてほしい。また、そういう噂が流れたら、それを否定して欲しいのだ。事実、それで力が得られても長続きはしないことはわかっている。約束してくれるか?―
(ああ、分かった。約束しよう!)
―ならば、光りの者よ。さらばだ。もう会うことはないだろう。約束、忘れるでないぞ・・・―
騎獣カフスの声が聞こえなくなった途端に、騎獣の雰囲気がザワザワと変わり始めた。
これか・・・。
クリークは納得した。いままで、騎獣カフスが押さえていたものが騎獣の躰から滲み出てくる。
すぐに両手を騎獣にかざし始める。うって変わったように、激しい抵抗を感じてきた。
これは酷い・・・。
ティアラの躰の半分は闇に持っていかれているな。
クリークは光りを際限なく強めてみた。気づいた騎獣が逃げようとしたが、いち早く光りの束で騎獣を抑え込む。
ここで、逃せばえらいことになる。逃すわけにはいかない。
目を閉じて、クリークは騎獣の中にいる闇を探し始めた。
その5へと続く