やっぱり…

 どうしても、記憶を巻き戻さなくちゃならないのか…

 あの、セルロイドの…

 

 そう…

 あの、無造作に波打つ栗色の髪をしたセルロイドの人形が、まだ存在していた遠い過去にまで。

 

 あまりに幼かった梨花には、あの人形……あの子を他所(よそ)から預かり受けたものだとは、まさかその当時、思ってもみなかった。

 気がついたら傍にいた、そんなあやふやな記憶でしかない。

 

 そうか…

 あの子は、森里美……お姉ちゃんが私に預けて寄越した人形だったのか…

 

 梨花は目を瞑ると、あの子が存在していた遠い過去へと記憶を辿った。

 森里美はそんな梨花のことを、少し不安げな表情を浮かべながらも、梨花が語り出すまで自分からは決して口を出すまいと、じっと黙って待っていてくれた。

 里美の醸し出す雰囲気から、梨花にはなんとなく、彼女のその優しい計らいが伝わってきていた。

 

 

 お姉ちゃんに会えなくなってから、寂しくて、哀しくて、ずっと泣いてばかりだった梨花のことを、唯一慰めてくれたのがあの子だった。

 あの子はまるで、お姉ちゃんの分身ででもあるかのように、梨花の傍から離れたことはなかった。

 いや、それは、梨花がどこへ行くにも、片時もあの子を手離さなかったから…

 

 幼い頃のことだ、時には乱暴な扱いをすることだってあったかもしれない。

 ただ、梨花の朧げな記憶では、あの子はいつだって大切にされていた。

 そう、あの不思議な体験……あの、思い出したくもない、奇妙な出来事が起こるようになるまでは…

 

 横にしたり寝かせたりすると、あの子は瞼を閉じて、立たせたり抱っこをして遊んでいる時には、その円(つぶ)らな青い瞳で、梨花のことをまっすぐ見ていた。

 そう、あの子はいつも、一張羅の赤いワンピースに白いレースの靴下と赤い靴を履いて、どこかツンとすましたおませな顔で、梨花のことをじっと見つめているのだった。

 

 梨花は、そんなあの子のことが、とても好きだった。

 その一方で、あの子が羨ましくもあった。

「わたしも、あかいドレスをきてみたいな…」

 幼かった梨花にとって、あの子が身につけている赤いワンピースは、どこか遠い異国のお城に住んでいる、美しいお姫様のドレスのように見えていた。

 なぜって、梨花が普段着ているどんな服より、あの子の赤いワンピースはずっとずっと綺麗で可愛らしかったから…

 いつか自分も、こんな素敵なドレスを着てみたいものだなぁと、夢見ていたあの頃…

 

 そんな、ある晩のことだった。

 酔っ払って帰ってきた祖父に、梨花は突然訳もなく起こされた。

 すると、掛けられていた寝巻きで簀巻(すまき)のようにぐるぐる巻きにされたかと思うと、そのまま布団の上に力ずくで押さえつけられた。

 3歳の小さな体は、大人の寝巻きにすっぽりと包(くる)まれることなど、造作もなかった。

 梨花はびっくりしたと言うより、とにかく息ができなくて、苦しくて苦しくて仕方がないのに、被された寝巻きの上から口元を押さえつけられ、声すら出すことができなかった。

 

 時間にしてみたら、ほんの僅かな時間だったかもしれない。

 けれど、その時の梨花にとって、それはとてつもなく長い長い時間のように思われた。

 まさかあの晩、祖父は本気で梨花を殺しにかかってきていたんだろうか…?

 だいぶ年月が経ってから当時のことを振り返ると、やはりつくづく恐ろしく辛いできごとでしかなかった…

 それが例え、酒乱からくる行き過ぎた行為だったとしても…

 

 その時はじめて、梨花はこのまま死ぬんだと思った。

 まだ3歳ほどの幼さで、次第に意識が薄れていく中、自分はもう死んでしまうんだと、漠然とそう思った…

 その直後だった。

 

 やっと押さえつけられていた力が緩まって、息が少しできるようになった。

 近くで見ていただろう祖母が、どうやらやっと祖父に何か言ってくれたらしい。

 梨花はここぞとばかりにその隙をつくと、出せる精一杯の力で祖父の手から抜け出すことができた。

 そして、無我夢中で呼吸をした。

 

 こんなことがあったというのに、その時梨花は、泣いてすらいなかった。

 ただただ、息ができるってこんなに嬉しいことなんだって、大丈夫だった、生きてる!自分は死ななかった!って…そのことが何より嬉しかった…

 

 梨花はあれ以来、祖父母の考えや行いの一つ一つを、どうしても好ましく見ることができなくなっていた。

 実際、祖父母が梨花のことを疎(うと)ましく思っているのを、幼いながらに薄々感じてもいた。

 あれからも、ことあるごとに平気で梨花を傷つけてきたから…

 弟が生まれてからは、それが顕著になっていった。

 見かねた両親が、そんな梨花に対して助け舟を出すくらいに…

 

 そんな両親は、いつも忙しくほとんど顔を合わすことがなかったから、あの子を筆頭に、曽祖母とチャコ(キジトラ猫)だけが常に梨花の味方だった。

 祖父母のことは、例え同じ空間にいたとしても、心から常に締め出していた。

 家族として関わる以上、それ以上でも以下でもない接し方で関わってきて、今に至る…

 

 家族って、何なのだろう?

 今ふと、あらためて思うことは…

 それが、例え血のつながりのある家族だったとしても、愛せないことだってあるし、愛されないこともあるんだということを…

 逆も然り…

 血のつながりがなかったとしても、人は人を愛することができるし、愛されるんだということを。

 まだリアル中学生の梨花には、そこまで愛というものを深く知る由もなかったけれど…

 これからきっと、だんだん知ってゆくのかもしれないし、知ってゆけたら良いな…

 

 それからというもの、梨花は時々夢遊病者のように、真夜中になると家中を、ひどい時には外にまで出て、一人徘徊するようになった。

 夢かうつつか、その頃からだった、あの子が梨花に頻繁に喋りかけてくるようになったのは。

 

 

 つづく

 

 

 

 

こんばんわ〜☆

 

今回書いたのは、かなりヘビィな内容となっております…

ノートに書いていた通りでなく、新たに書き足してみました。

私のリアルな体験もちょこっと?交えつつだったりもして、読んでいて、不快な気持ちになってしまったらごめんなさい🙏💦

その時はどうか、すばやく閉じてくださいm(_ _)m

 

お盆が近いのに、いくら小説とはいえ、ご先祖様(祖父母)のことを悪く言ったらあかんですよね…

いろいろあった祖父でしたが、私が短大の寮へ出発する日、車の後ろの席から振り返ってみたら、門の前で目頭を抑えて泣いていたんです。

見えなくなるまで、祖父はずっと俯いていました。

その時初めて、祖父が泣いていたのを見て、私はとても驚きました。

私はずっとずっと、祖父に嫌われていると思っていたし、嫌なことをされて私も嫌いだったし、だから家を出ることにしたのにって…

なんで泣くんだろうって、私は本当に分かりませんでした。

でも、それを見たら、私も思わず車の中でわぁっと声を上げて泣いてしまった…

 

それから間も無く、私が短大2年の春、祖父は帰らぬ人となりました。

66歳でした。

まさかそんなにあっけなく亡くなるなんて、人生は本当に分からないと思いましたが、祖父は根っからの自由人でしたから、思うまま生きて謳歌した人生だったと思います。

ただ、私は結局、祖父が何を考えているのか最後まで分からないままでした。

 

祖父と同い年だった祖母は、92歳まで生きて大往生しました。

祖母からもいろいろ嫌なことをされたりしましたが、後半は、だいぶマシでした…(こんな風に思っててごめんなさい…)

そう、生前、車を買ってもらったり、実家へ帰るたび、いつもお小遣いをもらったりして、なんだかんだで、いっぱいお世話になっていた私…

 

辛い時もあるにはあったけれど、今の私や娘がいるのは、ご先祖様あってこそ。

きっとこの記事も、すぐ傍で読んでくれていそうな気がするから…😅🙏

いろいろ書いちゃってるけど、ご先祖様、いつもありがとうございます🙇‍♀️✨

 

今年は久しぶりに、娘と一緒に実家のお墓参りに行く予定です。

種まきの時は、私だけお墓参りに行ったから。

そうなんです、娘がお盆休みでまたまた帰省してくるんです〜♡

 

 

今日もここまで読んでくださいまして、本当にありがとうございます✨

いいね、フォローにも感謝しております☆

たまたま覗いてくださっただけでも感謝です〜♪♪

 

しばらく浮上はお休みするかと思いますので、どうかスルーでよろしくです🙏

巡るのも、かなり遅くなるかと思います🙇‍♀️

コメントは返信が遅くなりそうなので今回はとじますね。

サブアカの方は…?神出鬼没で書くかもしれません😉←やるやる詐欺になりそうな…

 

皆様にとって、穏やかなお盆でありますように☆彡☆彡

それではまた〜(^_−)−☆

お元気でね、どうか暑さに負けないで💪✨