kyupinの日記 気が向けば更新 -829ページ目

精神疾患と皮膚病

精神科の患者さんは皮膚が弱い人が多い。これはいろいろな要因があるが、大きな原因のひとつに、もともと脳と皮膚は発生的な由来を同じくしており、脆弱性が似ているからだと思う。これは、昔習った理科か生物の教科書を読み直してみるとわかる。特に精神科に入院している人で、一般人よりおそらく頻度が多いと思われる皮膚疾患として、


①皮膚白癬

②爪白癬

③足底角化症

④一般の蕁麻疹


などが挙げられる。また外来患者さんのレベルでは、アトピー性皮膚炎をよくみるような気がするが、これは一般人も相当に多いので精神科の外来患者さんにより多いかどうかはわからない。


薬剤性のものでは、光線過敏性の皮膚炎がある。これはテグレトールやコントミンで出現しやすいので、これを服用中に海水浴などに行くと大変なことになりかねない。まさに真っ赤になり熱傷とかわらないくらいになることもある。入院中だと光線過敏状態になっているのかどうかよくわからないので、長い時間、太陽光線に当たることになる前に少しの時間院外に出てその有無を確認した方が良い。他に、精神疾患の経過中にヘルペスが暴れることもよくみられると思う(口唇へルペスや帯状疱疹)。精神疾患は、やはり神経の病気ではあるので、ヘルペスのような神経親和性の高いウイルスは影響が大きいのだと思われる。


妊娠、出産

2~3ヶ月前に出産した患者さんがいるのだが、妊娠中の薬をどうするか相当に悩んだ。その人、うつ状態なのだがピュアなものではなくて、ジプレキサがメインだった。まぁ統合失調症でもうつ病でもなくて、あえて言えば躁うつ病圏と言ったところ。当時いろいろな薬が入っていて処方をシンプルにせざるを得ないのだが、なかなか難しいからこそ多剤併用になっているわけで、簡単にできるくいらいならとっくにそうしている。


一般に向精神薬は古い薬ほど、催奇形性などの評価がわかっていて、例えば抗精神病薬ならコントミンやトリフロペラジンが推奨されている。また、抗うつ剤なら3環系抗うつ剤のトリプタノール、トフラニール、ノリトレンなどは比較的安全とされている。(3環系抗うつ剤が比較的安全と言うのは結構有名) SSRIについては歴史のあるプロザックがわりと情報が集まっており、比較的良いというのが多い。パキシル、デプロメール、ジェイゾロフトなどは情報は少ないが、わかっている限りでは比較的良いとされている。気分安定化薬のリーマス、デパケン、テグレトールはのきなみ催奇形性があるので、この患者さんの場合、いろいろ話し合ってデパケンをやめた。ここで注意したいのはこれらの薬物により催奇形性の確率が上がるとはいえ元の確率がかなり低いので、数十人~数百人の子供を生んでやっと1人発生する程度であること。確率が低くても起こるときは起こるのものだが、このくらいの確率なのである。


結局、ジプレキサがうつ状態、その他の症状をまとめて面倒をみてくれるので、パキシル、抗不安薬、デパケンはすべて中止し、ジプレキサ1本でいくことになった。ジプレキサはどうなのかというと、一般に非定型抗精神病薬の情報は不十分だが、ジプレキサに関しての予備的なデータではわりと良いと考えられているのである。ただこの患者さんの場合、ジプレキサは絶対やめられないと本人が言っていたので、何がしか危険性があったとしても、ジプレキサは続けていたと思われる。ただその人は統合失調症ではなかったので比較的少量でよかった。たった1.75mg(細粒)だけだった。


最も問題なのは眠剤だった。不眠が強いため眠剤なしでは生きられない。ベンゾジアゼピンは胎児障害と顔面裂の危険が高まると言われているが、ややデータが一致しないところもある。普通、妊娠の最初の12~13週には避けたい薬物なのである。できれば、不眠にヒベルナ(塩酸プロメサジン)を投与してなんとか乗り切れれば一番なのである(このブログのアンプリットの項、参照。ここでのイギリス人医師のような処方)。ヒベルナ(=ピレチア)は抗パーキンソン薬として精神科で処方されることが多いが、抗ヒスタミン系の薬物でこんな風に処方されることがある。ヒベルナは比較的安全と考えられている薬物なのである。この患者さんにはそれは難しすぎた。結局、本人の強い希望もありハルシオンを処方。なんだかんだで、ジプレキサとハルシオンで様子をみたのである。ジプレキサとハルシオンだけというのは、それまでの処方からするとかなりの綱渡りだったが、なんとか乗り切った。


結果は安産であった。しかし僕は精神科の患者さんは安産率がすごく高いと思う。結構、薬を服用していても。確率的には一般人よりは低いはずなんだけど。
(いつか向精神薬と妊娠についてはまとめて書きたい)

ドグマチール(その2)

一般名;スルピリド
(=
アビリット)

ドグマチールはフランスで開発され、1973年に本邦で発売されている。剤型は50mg、100mg、200mgの錠剤、細粒があるが、カプセルで50mgのみ発売されている。ドグマチールはアステラス製薬、アビリットは大日本住友製薬による。ベンザミド系抗精神病薬といわれ、このカテゴリーに属する薬物として、他にエミレース、バルネチール、グラマリールなどがある。適応は、50mg錠、カプセルでは、胃・十二指腸潰瘍、統合失調症、うつ病、うつ状態、100mg、200mg錠では、胃・十二指腸潰瘍が除外され、精神科の適応のみとなっている。向精神薬では内科系の適応の二本立てになっているものは比較的珍しい。(例えばPZCではメニエール症候群にも適応がある)


ドグマチールはD2受容体を選択的に遮断するが、血液脳関門の透過性が低いといわれており、mg力価が低い。催眠鎮静作用が少ないため、統合失調症では情動不安が目立たず安定しているケースに処方されることがある。少量では抗潰瘍作用、抗うつ作用を示す。抗プロラクチン血症を来たしやすいため、乳汁分泌や肥満の問題がある。女性では月経異常を来たしやすい。このドグマチールの薬価だが、50mgで20円、200mgでは30円くらいだが、ずいぶん古い薬物のわりに高いと思う。まぁ正規品ではこの程度が下限なのかもしれない。


もうかなり前(1990年頃)だが、刑務所に勤めていたことがある。刑務所の医務課は精神科医が必要なのである。当時、収容人数400~500人で、年間の医療費の予算がたった250万くらいだった。なんと1人当たり年間5000円なのである。もちろん刑務所内の医薬品もだが、刑務所外に出て診療を受ける場合の医療費もこの中に含むので全然足りない。基本的に刑務所内の人々は身体的にはとても健康なのだが、時々大怪我をしたり、もとから精神障害があって継続して服薬が必要な人もいる。だから医務室のテーブルには、それぞれ鎮痛剤やその他の薬剤の薬価が列記してあった。常に経費を考えつつ医療を行わないといけない環境だったのである。当時、アスピリンの安さと、アビリットの高さに驚いたものだ。刑務所内は向精神薬の種類がとても少なかった。当時、抗うつ剤はトリプタノールかトフラニールくらいしかなかったような記憶がある。なぜ、刑務所を1年くらいでやめたかというと、仕事が面白くないのに尽きる。あそこにずっといたら、シャバに出たときに、全然使い物にならなくなっていると確信する。

(2006年7月17日のブログ参照)

ECTの謎

今日、先月数回ほど電撃療法(ECT)を実施した青年がやってきた。(過去ログ参照・8月26日のブログの続き) それまで市内の友人のクリニックにかかっており、うつ状態が改善せずECTを勧められてうちに来た次第。その青年は希死念慮が強いなどはなくて、少なくとも差し迫った状況ではなかった。しかし友人から見ていつまで経っても埒があかないと思ったのであろう。青年にECTを勧めたようである。


彼の経過だが、最初1回目が終わった時、だいぶん良いと話していた。2回目は食事をして来ていたので中止し翌週に延期した。ところが2回目を実施した後、1回目の後よりは状態が悪かったという。ここがECTの謎な点である。ECTは1クールで考えると、概ね回数を経るごとに改善することが多いが、たまにもう1回したために病状が悪化することがある。どのあたりで変化が大きいかというと、初回と2回。1回目はたいして良くはないけどちょっとはマシくらいの感想が多い。2回目は、もっとも改善するポイント。ここで良くならないときは、3回目の後もあやしい。2回目の後あまりにも改善している場合、3回目は取りやめることもある。なぜなら、1つ前に戻ってしまうことがあるからだ。それにしても不思議な治療法ではある。ECTはダウンレギュレーションの理論でいうと、アップレギュレーションさせることが知られており根本的にこの理論と矛盾している。


この青年だけど、3回目の後でかなり改善したと言う。まぁ結果的には良くなってよかった。よくなり方を聞いてみた。本人によれば、3回目の直後から次第に良くなっていったという。2~3週間したらまた来てくださいと伝えていて、今日来院したのだ。今日は体調などを聞き他は何もなし。とりあえず今回で僕の治療は終結。僕は処方はしていないので、友人のクリニックで薬物療法を続けることになる。

リーゼ

一般名;クロチアゼパム

抗不安薬。これは、ベンゾジアゼピン系のカテゴリーには入らず、チエノジアゼピン系といわれる。チエノジアゼピン系に属する抗不安薬には他にデパスがある。抗不安薬はほとんどがベンゾジアゼピンに属すが、5HT1Aアゴニストのセディールやリーゼのようにベンゾジアゼピンに属さないものもわずかにある。他の抗不安薬としてアタラックスPは、「その他」に入っている。まぁリーゼはベンゾジアゼピンではないにしろ、それはほとんど問題にはならない。広い意味ではベンゾジアゼピンと同様に考えても良いと思われる。

 

リーゼは本邦で開発され1979年に発売された。デパスとリーゼはともに吉富薬品により開発されていると思う。(現、三菱ウェルファーマ) リーゼは最も抗不安作用の弱い抗不安薬の1つで、作用持続時間は短く、短時間作用型に分類される。短時間作用というのがデパスに似ている。剤型は5mgと10mgである。5mg錠が約9円、10mgが15円くらいであり、薬価は安い。(デパスの0.5、1mgも同じくらいの薬価) 30mgまでの範囲で処方されているが、普通、この数十ミリの用量自体が力価が低いのをよくあらわしている。反対に、用量のミリ数が小さいものはわりあい力価が高い。リーゼはセレナールなどと並んで抗不安作用が穏和な抗不安薬なのである。

 

リーゼの用法は、心身症(消化器疾患、循環器疾患)における身体症候ならびに不安・緊張・心気・抑うつ・睡眠障害、自律神経失調症におけるめまい・肩こり・食欲不振となっている。もちろん神経症にも処方されている。副作用としては、わずかに眠気、ふらつき、倦怠感などがみられることがあるが、一般のベンゾジアゼピン系抗不安薬よりはかなり少ない。それでも初めて向精神薬を飲むような人には、少し眠気を感じる人もいるようだ。リーゼは抗不安作用も弱く老人にもわりと処方しやすい、「水のような薬に近い抗不安薬」なのである。これはずっと以前だが、誰だったか患者さんが言っていた。だからリーゼが初めて処方されるパターンは、非常に症状が軽い時と、老齢など身体的に問題があり副作用を避けたい時ぐらいが多い。あるいは、もう少し強いベンゾジアゼピンで副作用が強く出た際に弱い薬に変更したい時など。わりと出番が少ないが、それでも薬の副作用は個人差が大きいので、どんな精神科病院でもリーゼかセレナールのどちらかは準備してあることが多いと思われる。