精神科長期入院中、人工透析に至る人が稀なこと | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科長期入院中、人工透析に至る人が稀なこと

精神科に長期入院中の患者さんが腎不全になり人工透析に至る人が未だ1名もいない。これは自分の受け持ち患者さんだけでなく、病院全体でもそうである。

 

このようなことを今、取り上げたのは、新型コロナウィルスのパンデミックにより、もし院内に透析患者がいたなら病院間の移動がさぞかし大変であろうと思うからである。

 

精神科長期入院患者さんは統合失調症、重い双極性障害が主で、それ以外の診断はかなり少ない。近年は高齢者の認知症も増えたが、高齢の人はタイトルの「精神科長期入院」に当たらない。

 

数十年単位で入院加療する人たちは、ほとんどの人が服薬しており、これだけ大きなN数で1名も人工透析に至らないことは、向精神薬全般、さほど腎毒性がないことを示している。

 

リーマスは腎臓にかなり負担がある薬だが、それでも人口透析に至るほどは悪化しない。元々、リーマスは腎障害には添付文書的に禁忌になっており、腎障害のある人には処方されない薬である。

 

2019年の資料によると、国内の慢性透析患者数は33万2千人ほどで、男女比は2:1である。慢性透析患者数はなだらかに増加しているが、平均年齢は次第に上がっており、70歳未満は減少傾向で高齢者が増加している。

 

透析に至る原因疾患は、1位が糖尿病性腎症で全体の約40%を占める。この%は次第に増加している。2位は慢性糸球体腎炎で全体の約25%ほどで昔は人工透析の主たる原因だったが、近年は線形に減少している。3位は腎硬化症で約11%ほどである。腎硬化症は高血圧が原因なので1位と3位は成人病由来である。

 

精神科入院患者は、数か月ごとに血液検査を実施している上に毎日病院食を摂っているため暴飲暴食にならず、成人病には極めてなりにくい環境にいる。家系的に糖尿病になりやすい人で糖尿病に至ったとしてもコントロールが不良なことはまずない。また入院患者さんは血圧測定があり、高血圧の人には降圧剤が処方されている。

 

これらのことから、長期に入院している患者さんはスクリーニングされていること、規則正しい生活をしていることで、成人病由来の腎障害から守られている部分がかなりある。

 

近年、減少傾向にある慢性糸球体腎炎はIgA腎症や膜性腎症、紫斑病性腎炎などであるが、いずれも免疫系疾患である。慢性糸球体腎炎は一定の確率で腎不全及び人口透析が避けられないと思われる。

 

長期入院患者さんが慢性糸球体腎炎を悪化させ人工透析に至ることがほぼないことは、長期入院患者さんに慢性糸球体腎炎がほとんど合併しないか、合併したとしても軽症であることが多いからであろう。長期入院の精神病の人は、腎臓が丈夫で腎疾患が稀と言わざるを得ない。

 

長期入院患者さんには、一般にはよくみられる疾患が極めて少ないことに時々気付く。例えば前立腺肥大はほとんど診ない。多くの抗精神病薬はα1レセプター遮断作用を持ち、前立腺肥大には治療的なのである。

 

このような考え方から、もしかしたら抗精神病薬には慢性腎炎を進行させない作用があるかもしれないと思う。例えば、臓器の慢性炎症を緩和するといったものである。抗精神病薬は脳内の神経レセプターに関与しつつ慢性炎症を緩和する作用を持つ。これらが他の臓器に同じような作用をもたらしてもおかしくはない。

 

そう思う理由は、例えばスピロノラクトンには腎障害に治療的などの知見があるからである。スピロノラクトンは降圧剤で高カリウム血症の副作用があるのにもかかわらず腎障害に良いと言うのは脅威である。

 

また、重い精神病自体が、腎臓の慢性炎症を緩和させていることすらありうる。これは過去ログで骨折など身体疾患が重いと精神症状が緩和するということを記載しているが、この逆バージョンである。

 

今回の記事は、精神病と身体疾患の謎と、薬の本来の目的以外の薬理作用により、特定の疾患が激減することもあると言ったものである。

 

参考