リーマスによる唾液分泌過多の話 | kyupinの日記 気が向けば更新

リーマスによる唾液分泌過多の話

 

今日の記事は専門的な話なのであまり面白くないと思う。

 

統合失調症の病状が重く長期入院している患者さんに流嚥(唾液分泌過多)が生じていることがある。なぜこれを挙げたかというと、最近のマスク使用の際にあっという間にマスクが使えなくなるほど流嚥が酷い人がいるからである。

 

今回はリーマス投与による流嚥についての話。

 

統合失調症に対するリーマスはaugmentation therapy的な併用療法のことが多い。患者さんによれば、精神運動興奮が強いとか、非定型精神病像を呈していることから追加処方されることもある。

 

augmentation therapyは読者の方はあまり聴いたことがないと思うが、例えばうつ病の人に対し主剤となる抗うつ剤にエビリファイやレキサルティの少量を追加し抗うつ作用を増強するなどを言う。もちろんうつ病の人に抗うつ剤にリーマスを追加することもaugmentation therapyと呼んでよい。しかし例えばレクサプロにパキシルを追加するのは単に併用でありaugmentation therapyとは言わない(と思う)。

 

リーマスは振戦なども生じるが、錐体外路症状は抗精神病薬よりは出現頻度が低い。しかしリーマスは悪性症候群を惹起することもあり、錐体外路症状も副作用として視野に入れるべきであろう。統合失調症に対するリーマスがaugmentation therapyであるなら、リーマスはほとんどのケースで必須というほどではないと言うことになる。

 

一番上の資料はリーマスの添付文書の一部を拡大している。この中の消化器系の副作用に「唾液分泌過多」が挙げられている。これらの副作用は減量または休薬で対応するように記載されているので、真の重大な副作用とはみなされていない。休薬であれば今後再開することも十分にあるからである。

 

 

上は副作用の後半部分であるが、中枢神経系には「唾液分泌過多」は挙げられていない。精神科的には唾液分泌過多はいかにも中枢神経系の副作用に見えるが、添付文書的には消化器系に挙げられていることに注意したい。わかりやすいため、ここにまとめられていると思われる。

 

統合失調症の診断の中等度以上の唾液分泌過多がみられる50歳代の患者さんのリーマスを減薬することにした。主剤はエビリファイ24㎎とクレミン12.5㎎である。この量でこの程度の錐体外路症状は出ないわけではないが、確率的には低いと思われた。ということはリーマスが怪しいと言うことになる。なお、リーマスの用量は400㎎で血中濃度は治療域に達していない(0.33程度)。

 

大抵の向精神薬は漸減した方が良いが、リーマスのこの用量でこの血中濃度ならいきなり中止しても大丈夫と思われた。なお、リーマスは急に中断しても離脱症状は出現しにくい。

 

(結果)

リーマス中止後、11日目に唾液分泌過多は消失した。

 

この患者さんの唾液分泌過多は抗精神病薬に由来するものではなく、リーマスによるEPS(錐体外路症状)の流嚥だったのである。EPSと思う理由は、リーマス中止以降、徐々に姿勢が良くなり、突然膝を床に落とすような奇妙な不随運動?が激減していることなどが挙げられる。

 

この話の迷彩は、既にある程度の抗精神病薬が処方されているために、リーマスが主因だと思いにくいことだと思う。