2つの仕事を同時に任せられるとダメと言う話 | kyupinの日記 気が向けば更新

2つの仕事を同時に任せられるとダメと言う話

注意欠陥多動性障害(ADHD)はトータルではホモジニアスな障害に見えるが、個々の柱となる症状の相違から、けっこうバリエーションがある疾患にも見える。これは奇妙な表現だが、実際にそうなので仕方がない。ある日、診察中、ある患者さんから

 

2つの仕事を同時に任されるとできなくなる。

 

と言う話を聴いた。同時に、

 

周りに人がいなくて1つのことをやり続けるなら、ストレスなくできる。

 

と言うのである。また薬物治療の経過中、

 

コンサータだと1つのことを集中してできるし失敗も減るが、同時に2つの仕事ができない。でもストラテラだと、2つの仕事がだいぶんできるようになる。だから私はストラテラの方が良いみたいです。

 

と言ったのである。これはコンサータとストラテラの特性を実によく表現していると思った。

 

上の会話は偶然、診察中に出てきたものだが、なかなかここまで明快で素晴らしいコメントを聴くことはできない。(なかなかここまでポイントを突いて話してくれないと言う意味)

 

注意欠陥多動性障害(ADHD)の機能障害の柱として、

 

○実行機能障害

○遅延報酬障害

○時間処理障害

 

というものがある。これらは同時に3つ持つ人もいるが、どれか1つだけ、あるいは2つ持つ人、3ついずれも持たない人もいる。いずれも持たない人が少なからずいることも凄いと思う。発達障害の人たちには、テストをしても全然証拠がないのに、病棟で観察している限り発達障害にしか見えない不思議な人たちもいる。

 

実行機能障害とは、物事を論理的に考えて計画する、状況を見て行動に移すなどの機能である。ここに障害があると、周囲からみて段取りが悪いと言った感じになる。この障害は画像診断的には前頭前野の機能不全と関係が深い。

 

遅延報酬障害とは、1行で言えば「待つことができない」人。本来、脳内の報酬系とは欲求を満たした時に快感や満足感を生み出す座である。ADHDで遅延報酬障害のある人は、その報酬がもらえるタイミングが遅れることに耐えられない。そのような感覚で行動を早めに起こすために落ち着きがないように見えたり、結果的に失敗が増えるのである。また興味を持ったことにちょっと手をつけてすぐに放り出す行動パターンにも繋がっている。(実行機能障害と言うべきか微妙なものも含まれる)

 

3番目に挙げた時間処理障害は、簡単に言うと「段取りをつけて物事をこなす」機能障害である。つまり重要な順に並べてこなしていく機能。ADHDの人に、重要性の低いことにこだわって時間がとられるために大切なことが全然進まない人がいる。また、無駄な動きが多い人。この機能は脳の後方、小脳が関与しているという。また、小脳はノルアドレナリン作動性神経が豊富にあると言われている。

 

一般にADHDは不注意優勢とか多動・衝動優勢型などに2分されているが、すぐには見えにくい時間処理障害も重なっている人もいるため簡単ではないのである。

 

コンサータは3番目の時間処理障害に対する効果が弱い。つまり時間処理障害が目立つ人は薬物治療的にはストラテラの方がむしろ良いのである。(一方、コンサータは不注意の改善や多動には効果が高い。)

 

最初に挙げた、

 

2つの仕事を同時に任されるとできなくなる」人が、

 

コンサータだと1つのことを集中してできるし失敗も減るが、同時に2つの仕事ができない。でもストラテラだと、2つの仕事がだいぶんできるようになる。だから私はストラテラの方が良いみたいです。

 

と語るのは、薬物特性的にはその通りなのであった。

 

ちょっと診察中、感動したので、その人に上の話をかなりわかりやすく説明した。また、こういうことを言ってくれたのは「あなたが初めてです」みたいな。

 

診察中、注意していると、少し形が変わったこれらの3つの概念を実感する表現がしばしば出てくることに気づく。

 

例えば、注意力は散漫なのに片付けは非常に上手い人たち。このようなことから、訪問看護に行った際、部屋の中が片付いているかどうかを聴くようにしている。