二次的に薬に弱くなる経過 | kyupinの日記 気が向けば更新

二次的に薬に弱くなる経過

精神疾患を長く診ていると、その患者さんが薬に弱くなる経過に遭遇する。このメカニズムはまだよくわかっていないのではないかと思う。

 

一般に発病後なんらかの理由でしばらく服薬していない場合、特殊な病態以外は薬に弱くなる印象がある。ここでの「薬に弱くなる」とは少ない用量で十分な効果が出るとか、副作用が出やすいことを言う。

 

例えば、かつてセレネースを20㎎も飲んでいたとしよう。その人が長期間(5年以上)全く服薬せず、かなり増悪して入院した。その人はセレネースの少量(1.5㎎程度)でも著しく錐体外路症状が出たのである。もはやセレネースで治療することは難しかった。

 

このような経過はセレネースのような抗精神病薬だけでなく、デパスのようなベンゾジアゼピンでも経験する。

 

一般的に服薬しない時期が長いと以前服薬で来ていた薬が使えないことがある。これは詳細なメカニズムはともかく、感覚的には理解しやすい。

 

他、二次的に薬に弱くなる経過として、身体状況の変化が挙げられる。もっともありふれているのは加齢による忍容性の低下である。つまり40歳くらいでは結構な量を服薬していたが、徐々に服薬できる量が減少し、80歳くらいになるとセロクエル100㎎で良いなどである。他の身体状況の変化として癌が発症後、著しく忍容性が低下し病状も軽くなり、服薬なしかごく少量で良い人もいる。また感染症のため高熱があり相対的に抗精神病薬が重くなるケースもある。これらも感覚的には理解しやすい。

 

若年者で最初から抗精神病薬やその他の向精神薬に弱い人は「二次的に」ではないので、ここでは扱わない。

 

若い人で一時は結構服薬で来ていたのに、ある病態変化により劇的に忍容性が低下し、碌に服薬できなくなる人がいる。これは精神疾患にもよるが、服薬できないために荒廃が進み悪い経過になる人もいる。必要な薬が服薬できないなんて最悪な事態である。

 

これはいろいろなケースがあるが、カタトニアという病態を契機にそうなりやすい。カタトニアの主要な所見は、「無動症」「無言症」「姿勢保持」「常同運動」「衒奇症」「固執」「ひきこもり」「しかめ顔」「凝視」「拒絶症」「反響症状」などである。

 

過去ログで、「外来の待合室で壁の近くにいつまでも彫像のように立っている人がカタトニアである」といった記載をしている。

 

カタトニアは古くは統合失調症の1型と考えられていたが、今はそこまで疾患特異性はなく、内因性疾患だけなく、神経症、認知症を始め広く器質性疾患、広汎性発達障害、身体疾患に伴う症状性疾患などに出現しうる症候群と見なされている。少なくとも自分はそう考えている。また一般的に言われる「悪性症候群」もカタトニアの一型と考えられる。

 

この病態を経て著しく忍容性が低下し特に抗精神病薬が碌に服薬できなくなる人たちがいる。ただし、全てのカタトニアの人がそうなるわけではない。

 

悪性症状群はある一定の診断基準を満たさない場合、とりわけそう診断する必要はない。時に急激な断薬を契機に、悪性症候群ではないカタトニアを生じ、その結果、著しく薬に弱くなってしまう人がいる。(だから急な断薬が危険なのである)

 

特に統合失調症と診断されていたとしても、広汎性発達障害のような器質性背景がある人は特に抗精神病薬の取り扱いは注意すべきだと思う。