処方しているうちに薬の効き方が変わる | kyupinの日記 気が向けば更新

処方しているうちに薬の効き方が変わる

過去ログに薬の効き方をオーディオのエイジングに例えて経験を積まないと効く薬も効かないとか、内科医と精神科医で向精神薬の効き方や副作用の出現率まで変わるといった記事がある。

 

このようなことからジェイゾロフトがなかなか治験がうまくいかなかったのだろうと言った意見も記載している。

 

そのようなオカルトなものが介入するため、新薬は色々と難しい。

 

最近、いくつかの薬で以前より成功率が高まったものがある。その1つがストラテラである。

 

ストラテラはADHDの薬として最初に成人に処方できるようになった薬である。海外ではコンサータが使われることが多いらしいが、日本では海外より比較的、ストラテラが使われているという。

 

ところが、ストラテラはコンサータよりはっきりとした効果が出にくい印象があり、成功率が低い薬だった(私見だが)。

 

ある時、重いうつ状態で何度も自殺企図を繰り返し、このままでは入院中ですら、自殺既遂もありえると思われる女性患者さんを診ていた。

 

この患者さんの家族歴をもう少し詳しく聴取したところ、血縁のある人にADHDと思われる人がいることがわかり、ストラテラに可能性を感じた。なぜなら、ADHDはホモジニアスな疾患だからである、

 

女性の場合、落ち着きがないという所見が男性に比べ目立たず、集中力がない、あるいは集中が続かないなど、今一つ所見としてはっきりしないと言われている。そのような理由で、所見の顕れ方が異なるだけで、みかけほど男女差が著しくある疾患とはいえない。

 

この女性にストラテラが劇的に効いたのである。ストラテラのためにかなり薬が整理でき処方もシンプルになった。そして到底、職場復帰できそうになかったのに、今は専門職として現場復帰している。

 

過去に、自分の患者さんでこの人ほどストラテラが効いた人はいない。

 

この人はストラテラ以外は眠剤くらいしか使っていないが、それすら使わずに済む時期も多い。なお、ストラテラの処方量は今は40㎎だが、普通ストラテラは成人では80㎎は必要な人が多いらしい。

 

その治療後、しばらくストラテラの成功率が急に高くなった印象はなく、今一つはっきりしない薬のままだった。だいたい、転院して来るストラテラ処方患者さんも、効いているのかどうか疑わしい人がいる。それどころか、ストラテラを中止し、コンサータも使わず、自分の思うように治療した方が遥かにマシな経過になる患者さんも少なからずいて、特別な薬になることがなかった。

 

ストラテラは高価な薬物なので、ADHDがあるとはいえ、効かない人に使い続けるのは医療経済的にどうかと考えている。

 

ストラテラは確かに彼女には劇的と思えるほど効いたが、彼女の方が特殊例と言えた。

 

その後、ADHDにコンサータを処方する機会が多くなり、その際にストラテラを試みる機会もあったが、なかなかパッとしなかった。しかし、その経験値のようなものは無駄ではなかったようなのである。

 

ある日、あるまだ若い女性患者さんが母親に連れられて初診した。母親がどうもこの子はADHDのようなので治療をお願いしますと言うのである。その子は一見、普通の子で、どこも精神科的には悪くないように見えた。

 

症状としては落ち着きがないという所見がなく、集中が長く保てずうっかりが多いらしい(一応、テストはしている)。

 

集中が保てず、うっかりが多いと言うのは、初診時に外見だけでわからない。ここが、外来受診時に一時も落ち着きがない児童との決定的な相違と言える。

 

また、一見して精神科的にどこが悪いかわからないレベルのADHD患者さんに、コンサータから開始するのはあんまりである。また、この患者さんは二次障害といえる所見がほぼないのである。少しだけ使ってみるなら、ストラテラが使いやすい。

 

その子は既に学童期ではなく成人とさほど体重が変わらないが、18歳未満のストラテラの処方マニュアルに沿うと最初から40㎎は多すぎると言えた。そこで20㎎(5㎎カプセル1日4カプセル、朝夕2分服)だけ処方したのである。また家族は最初から1か月分処方してほしいと言う。実際には漸増が必要かもしれないが、それでも良いと思ったのでそのまま1か月処方した。

 

ストラテラの用法・用量(18歳未満の患者)
通常、18歳未満の患者には、アトモキセチンとして1日0.5mg/kgより開始し、その後1日0.8mg/kgとし、さらに1日1.2mg/kgまで増量した後、1日1.2~1.8mg/kgで維持する。ただし、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこととし、いずれの投与量においても1日2回に分けて経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、1日量は1.8mg/kg又は120mgのいずれか少ない量を超えないこと。

 

初診から1か月処方はストラテラだからまだしやすいわけでコンサータならしない。しかし、どのような効き方だったのか、主治医として気になるのは仕方がない。また、1か月処方だと自分のいる日に再診してくれるか、あるいは再度来院するかも怪しいと思った。

 

ところが、1か月後に彼女は再診したのである。

 

なんと、ストラテラは穏やかに効き、集中力が高まったらしい。中間試験も前回より成績が劇的に伸びて喜んでいる。

 

集中力が足りなくて成績が悪い人はストラテラが有効なら、成績が上がって全然おかしくない。

 

彼女の治療後から徐々にストラテラの成功率が高まったような印象がある。

 

参考

精神科医と薬、エイジング