アパシーやアンヘドニアにはECTは効かない話 | kyupinの日記 気が向けば更新

アパシーやアンヘドニアにはECTは効かない話

過去ログで、ECT(電撃療法)は重いうつ状態に治療的であり、幻覚妄想にはあまり効かないという話が出てくる。研修医時代、これはECTが良いと言われた患者さんは、

 

1、重いうつ状態で自殺企図が著しく、一時も目が離せない状況。

 

2、主に内因性由来の昏迷状態あるいはカタトニア。

 

3、著しい拒食状態(これも主に内因性疾患)。

 

というものであった。これらがECTの対象になったのは、1では薬物による症状改善が間に合わないからである。(自殺既遂のリスク大)

 

2では、いろいろな要因があるが、まず薬物ではそのまま悪性症候群に移行しかねないことなども含め薬物治療にリスクがあること。また、このまま放置もできないことによる。この昏迷にはヒステリーなどの内因性以外の疾患も含まれた。

 

3は、随分漠然としているが、昏迷でも重いうつ状態、カタトニアでも生じうるので1や2とオーバーラップする。真の拒食症は結構動けるので、その症状だけで(神経症とみなされていたこともあり)実施されることは稀だった。実際、拒食症に実施した場合、けっこう有効であった。

 

今ではあまり診なくなった体重が30㎏を切るような中核群にも実施されていたように思う。(有効)。しかし次第に時代の流れとともにこのタイプが激減し、過食も伴う体重が正常域にある患者さんが増えたため、ECT治療が相応しい人はほとんどいなくなった。黎明期の摂食障害は、男性例がいただけで一例報告ものだったのである。(それだけ珍しい)

 

あと、統合失調症などの緊張病性興奮にも実施されることがあったが、これは、保護室に入っていて、注射を含め薬物治療を実施することも容易ではなく、看護者に負傷者も出かねないケースである。現在は主に古典的緊張病性興奮が減少したことや、ザイディス錠などの薬物の剤型の進歩により、この適応に相応しい人も激減している。

 

このようなことから、時々、自分はECT治療が良いのではないですか?というアメブロメールが来るが、そのようにメールが書けるほどの人はほとんど適応にならないのがわかる。

 

特にアメブロメールでECTを考えている人は、ダラダラとうつ状態が長引いていると思う人が多いが、実質的に、このような状況にある症状はアパシーあるいはアンヘドニアが多い。

 

アパシーとアンヘドニアは異なる病態だが、これ自体が主な病名ではなく、二次的あるいは付随症状である。

 

アパシーは医師や看護者あるいは家族に他覚的所見として捉えられることが多い。これは統合失調症圏内ではアパシーが苦悩として自覚しにくいからである。もし統合失調症と診断されていて、アパシーに苦しんでいると思う人がいたら、それは統合失調症的ではない。統合失調症以外の疾患、例えば広汎性発達障害の人では、アパシーは何となく自分でも感じていることが多く、医師やカウンセラーに指摘されると、それですと言うことが多い。このようになるのは、アパシーという用語が一般的ではないからであろう。(アパシーはグーグルで調べよ)

 

アヘンヘドニアは主に自覚的苦悩で、他覚的には捉えにくいが、本人が苦悩として医師やカウンセラーに言うことが多いので、カルテには記載されている。これが主訴になることがあるので、アパシーに比べると、ずっと自覚症状的である。ただし、周囲から見ていて、その苦悩が伝わることがあるため、あの患者さんにはアンヘドニアがありそうだと思うこともある。(アンヘドニアもグーグルで調べてほしい)

 

アパシーとアンヘドニアにはECTはほとんど効かない。一時的に少し良くなることがありうるが、この症状は器質的要素が大きいこともあり、ECTは相応しくない。

 

統合失調症ですら、アパシーは器質要因が大きい精神所見である。(長期間患っていてはじめて顕著になる所見)