単極性うつ対するリーマス増強療法の罠 | kyupinの日記 気が向けば更新

単極性うつ対するリーマス増強療法の罠

リエゾンや転院の処方に、調子のよくないうつ病、うつ状態の患者さんに対し、リーマスを追加されているのを見る。これはマニュアルに沿ったものともいえる。

 

このような患者さんを診た際、リーマスを追加されてこの結果なのか、リーマスが今の精神症状にほとんど関与していないのか、すぐにはわからない。

 

もし、精神症状が良くない状況であれば、処方内のリーマスの意義を検証することも必要だと思われる。

 

これを確かめると、リーマスの追加が意外にうまくいっていないのがわかる。リーマスは、うつ病だけでなく統合失調症の患者さんにも追加処方されていることがあり、処方の複雑さ(1回の服薬錠数の多さ)を来す原因になっている。

 

また、リーマスが追加されてるということは、つまりそれまで治療そのものがうまくいっていないことを示している。例えばこのような処方。

 

サインバルタ 60㎎

リフレックス 45㎎

リーマス  400~600㎎

デパス  3㎎

他、眠剤、下剤、胃薬など。

 

これで良かったとしても調整したいところである。これでまるで良くなっていないのである。

 

このような処方は精神科医以外の医師によることはまず考えられない。いったいどのような医師が処方しているのか興味がわく。なぜ身体科医師の処方ではこのような処方を見ないのかと言えば、彼らはうつ病に対し、リーマスを合わせるなんてまずしないからである。

 

あるとき、以下の処方の患者さんをリエゾンで紹介された。

 

リフレックス 30㎎

リーマス 200㎎

ベルソムラ 20㎎

デパス   1㎎

 

これは少なくとも、無茶苦茶な処方ではなく、むしろ難治性の患者であれば控えめな処方である。良くなっていないのに、サインバルタが追加されていないのは、比較的年配の患者さんだからかもしれないと思った。

 

振戦が著しく、200㎎だとしてもリーマスが関与している可能性がある。このうつ状態の患者さんの特徴は疼痛が比較的強いことであった。

 

この処方は、市内の心療内科クリニックによるものだった。クリニックは受診しやすい面があるが、素性がわからないことが不安点の1つだと思う。クリニックのほかの難点は、待ち時間が長いことと、閉院が稀ではないことだと思う(障害年金を受けようとした際、閉院していて愕然とする)。

 

良い点は、診察の敷居が低いことや、夕方6時過ぎなど遅い時間にも開いていて、平日仕事帰りにも診察を受けられることだと思う。

 

一般の単科精神病院とクリニックの医師の相違だが、結局は医師次第である。従って、技量的には真の精神科医であれば、どちらがより良いとも言えない。

 

上の処方は精神科医だと思うが、比較的経験の少ない医師によるものと思った。(少なくとも10年以内)後で確かめると、本当にそうだった。

 

この患者さんは全然食事が摂れないらしい。リエゾンではうつ状態由来だけではなく、何らかの原因による食思不振の主訴で紹介されることが多い。この患者さんうつ病性昏迷の一歩手前で手指振戦も酷く、薬物が噛み合っていなかった。

 

この処方をどのように変更したかだが、第一感ではガバペンは良さそうである。この病態にガバペンは柔らかい処方だと思う。ただし、リエゾンではガバペンは処方しにくい。ガバペンは適応外処方であるし、何らかの抗てんかん薬を併用せねばならないからである。

 

また異なる理由でラミクタールも処方しにくい。これは重い中毒疹が出た時に困るからである。リエゾンでは無難な処方で改善を目指さないといけないと言う点で、一般の精神科外来ほどの自由度がない。

 

上の患者さんだが、リフレックスをむしろ減量した方が良い印象だったのと、リーマスはむしろ有害な影響を与えているように見えたので、リフレックスを15㎎まで減薬し、リーマスは中止した。そこで、ベルソムラをロヒプノール1㎎に変更し、リリカを50㎎追加してみた。ロヒプノールは、ベンゾジアゼピンと言う点で、ベルソムラより遥かにカタトニアに治療的である。同じ理由で、デパスはそのままにしている。

 

リフレックス 15㎎

リリカ 50㎎

ロヒプノール 1㎎

デパス 1㎎

 

この処方変更の翌日から目が覚めたように改善し、食事も食べるようになったらしい。これは、看護記録及び看護師さんの証言によるものである。なお、看護師さんによるとリエゾンの診察日の翌日に劇的に改善することが結構あるらしい。この翌日からというのが自分でも謎に思うことで、自分の病院では普通、そこまで早くない。薬理的にも翌日というのは不思議な話である。

 

疼痛も90%は消失していたが、これはリリカによるものが大きいものの、うつ状態自体が改善したことも貢献している。また、次回の診察時に、手指の振戦がほぼ消失していたので、リーマスがむしろ悪かったことがわかる。

 

リーマスは比較的止めやすい薬なので、処方されていたとしても対処しやすい。リーマスが使われているケースでは、その意味を考慮することも重要だと思われる。

 

なぜこのようなことになるかというと、マニュアル通りにし過ぎるからである。もう少し患者さんを診て治療方針を考えるべきだと思う。また、上手くいかないケースでは、単に追加するだけでなく、量を減らしてみることも一考だと思う。(厚みのある試行錯誤)

 

ただしこのケースに限れば、リフレックスが30㎎のままだったとしても同じ結果になったと思うけどね。

 

参考

メージ症候群(後半) ]

単極性うつ病と双極性障害のうつ状態

双極性障害のうつ状態エピソードに対する治療についてNEW!

リーマスとNNT(Number needed to treat)