エビリファイの持続性抗精神病薬の曖昧な部分 | kyupinの日記 気が向けば更新

エビリファイの持続性抗精神病薬の曖昧な部分

エビリファイの持続性抗精神病薬(LAI:Long Acting Injection)が発売されて以降、うちの病院ではあまり対象者がいなかった。その大きな理由は、エビリファイを服薬している人は比較的アドヒアランスが良く、わざわざ持続性抗精神病薬に変更する必要がなかったからである。

また、非定型抗精神病薬のLAIは非常に高価で変更する以上、それなりの合理的な理由がなければならない。過去ログでは無意味なLAIへの変更を批判的に記載した記事もある。

今でもうちの病院でエビリファイのLAIは2~3人しか処方されていない。ひょっとしたら、自分しか処方していないかもしれない。

なお、エビリファイのLAIは300㎎と400㎎があるが、いずれも4万円前後する。1か月に1回なので1日平均1000円を超え、療養病棟では使いにくい薬価水準にある。

一般に経営的に、1日薬価が1000円を超える患者は療養病棟に入院させるべきではないと言われている。(赤字になりかねないため)。

エビリファイはのLAIは、ルール的には筋注後2週間はそれまで服薬していた内服のエビリファイの用量の半量を併用で服薬する。原則、LAIは400㎎から始めるので、24㎎内服していた人は12㎎錠を2週間服薬するといった感じだ。(30㎎なら15㎎内服)

以前服薬していた内服薬がいずれの量でも400㎎から開始という曖昧さである。アバウトさというべきか。

自分が初めてこれはエビリファイのLAIを使った方が良いのでは?と思った患者さんは、エビリファイ以外の抗精神病薬では突進歩行などの副作用が出すぎて使えず、エビリファイでもそのような副作用がないわけではない人。つまり、一般的な抗精神病薬で非常に副作用が出やすく、なんとか副作用を減じたかったケースだった。またその患者さんの精神病の重さは、生涯、入院しておかないといけない水準(最も重いレベル)にあった。

したがって、エビリファイのLAIが想定しているありがちなプロファイルとは異なっていた。

一般にエビリファイに限らず、LAIでは、日中の血中濃度が安定するなどのメリットがあり、同じ血中濃度でも、効果、副作用とも良い方に働くことが多い。この人は、1度はエビリファイを試みた方が良いケースと言えた。

初めてエビリファイをこの患者さんに筋注した際、その効果に驚いた。その理由は、ぱっと表情が明るくなったからである。それだけで試みた価値があった。アセナピンにも言えるが、いきなり門脈を通過しない薬は非常にメリットが大きい。一般的なその薬のイメージを変えるほどである。

ルール通り最初の2週間は従来服用していた内服量の半量を併用している。この患者さんの場合は15㎎である。

ところがである。仔細に観察すると、LAIは、特に副作用の点で良いのは良いが、筋注だけだと効果がやや劣るように見えるのである。特に最初の2週間を過ぎるとそれが顕著になった。とたんに、病棟内での大声や叫び、罵倒、興奮が目立ち始めた。

これには理由がある。エビリファイのLAIは筋注後20週で血中濃度が安定すると言われている。逆に言えば、20週(約5か月間)の間は、徐々に血中濃度が上昇している時期で、十分な用量とは言えない人もいる。

メーカー的には16週とアナウンスしており、4週では120ng/ml、50週では310ng/mlくらいだが、個人差が大きく、50週でも130ng/ml程度の人がいると言われる。このようなところも、エビリファイLAIの曖昧な部分である。

したがって、推奨されている2週間を超えて内服で追加して持続した方が良い人たちも確実に存在する。自分の患者さんの場合、15㎎を2週間でいったん止めたが、話にならないので再び追加処方している。これで、LAIのみ処方に比べかなりマシになった。この患者さんの場合、抗精神病薬はエビリファイ単剤で治療せざるをないケースなので仕方がなかった。

レセプト的には追加処方する理由をコメントしているが、これでさえ査定されないとは限らないし、長期に続けた場合、査定される可能性が高い。それはLAIが高価だからである。

ここで、1つの謎が生じる。

元々、LAIは3つのメリットがある。
1、コンプライアンスの改善。
2、副作用の減少。
3、血中濃度の安定による効果の上昇、陰性症状の改善など。


今回の場合、1は入院患者なので問題にならない。この患者に限れば、LAIに変更して単に血中濃度が低下したために副作用も減じたのではないか?という疑念である。

まして、15㎎も内服で追加処方してしまうと、2や3のメリットも怪しいものになる。これは半年以上経ち、効果の状況を見定めないとわからないものだと思われる。

ただ、エビリファイの特別な点は、この薬にかぎれば少ない用量の方がかえって副作用が出やすい人も存在すること。だから「単に血中濃度が低下したために副作用も減じたのではないか?」という文章すら曖昧なものだ。

LAI実施後、明らかに追加処方を継続しないといけない患者さんは、高価なLAIを継続することが医療経済的に見合うかどうか検証が必要だと思われる。これは、エビリファイのLAIには極めてアバウトな部分が多いことと関係している。

外来の男性患者さんにエビリファイのLAIを使ったケースでは、エビリファイの内服からLAIに変更した際、ガクンと幻覚が減少したという。また表情の改善など、陰性症状の改善についても悪くなかった。また追加処方も必要なかったのである。これはLAI実施後の血中濃度の個人差の大きさから来ていると推測される。

また、全く服薬しない統合失調症の女性患者にエビリファイを試み、その後LAIに変更した。この人はもともと、家族が20年以上本人にわからないようにセレネースを服薬させていたような人だった。一般的に、いつかはこの方法は破綻する。その理由は管理をしている人が高齢で亡くなるなど保護者がいなくなるからである。

この人は忍容性が低い方で、セレネースを少量服薬させたくらいでは改善があまりなく、また増やせる状況にもなかった。理想的にはジプレキサのLAIが良さそうだが、この剤型がないので仕方なくエビリファイを選んだ。失敗を避けるため最初から24㎎で開始した。忍容性の低い人には、逆説的だがエビリファイに限ればこの方がかえって成功しやすいためである。

エビリファイは、本人があまり苦痛を言わない程度のアカシジア(謎)が生じたので、たぶん少量から始めたら失敗していたと想像する。その後、LAIに切り替えたところ、病棟スタッフ全員が、その改善に気づくほどの表情の変化が生じた。それと体重が増加し始めたのである。(入院時30㎏台)。これは存在するならジプレキサのLAIが良いと思った根拠でもある。

いずれにせよ、エビリファイのLAIには曖昧さからくる謎が多い。

参考
エビリファイの持続性抗精神病薬
リスパダールコンスタの継続と中止の目安