タバコは1000円になっても僕は吸いますよ | kyupinの日記 気が向けば更新

タバコは1000円になっても僕は吸いますよ

数年前、診察中、患者さんが、タバコを10万円分買ったと話していた。タバコの値上がり直前だったので、たぶん2010年の秋頃。10万円分のタバコは約250箱である。

なお、タバコの賞味期限は製造後、10ヶ月~1年という話だが、現在、この日付はタバコの箱に記載されていない。タバコは保存状態によってもかなり賞味期限が変わるという。

彼は1日20本吸っていたので、約250日分になる。つまり、8ヶ月余りの買い溜めなので、賞味期限を考慮すると、無意味な買い溜めとまでは言えない。彼が賞味期限を知っていたどうかは不明だが。

このタバコの「買い溜め」という行動だが、統合失調症の場合、世界没落体験から来ることがある。強迫性障害から由来したのも診たことがある。平凡に考えれば、今後タバコが買えなくなるという不安感から来ることも十分にある。

何らかの精神症状に由来すると思う理由は、彼にとって10万円は大金だったからである。

当時、少し変だとは言え、値上がりに相応した行動だったのでそのまま経過観察していた。ところが、次第に彼の普段の行動からは考えられない浪費が出現したのである。

過去ログに、いつも万歩計を付けていた躁うつ病の高齢の男性の話が出てくる。彼の場合、躁状態では、時に2万歩を超える著しい歩数の増加が見られていた。

躁状態は、浪費などの外から見ている限りわかりにくいタイプの精神所見と、誰でも明らかにわかる過活動や興奮などの所見がある。一般に、後者の方が真の双極性障害っぽい所見と言える。つまり過活動を重視したい。


もう少しわかりやすく言うと、双極性障害ではなくても、浪費などの行動は他の疾患でもよく診るのである。すなわち疾患特異性があるとまで言えない。毎日、会社に真面目に通っている女性でも、家庭内では大変な浪費が生じているという話は実際にある。

10万円分、タバコを買ったその男性はその後、真の躁状態に至り入院することになった。彼は薬物(リーマス)の反応が良く、2ヶ月以内に退院した。彼の場合、あの10万円のタバコ購入は、その後の躁状態と一連のものと考えられる。

その後、ある外来診察の際、タバコの話をしていたら、

タバコは1000円になっても僕は吸いますよ。

と言い、にっこりした。彼の場合、タバコをやめるつもりなど全くないらしい。

現実問題として、1箱1000円になったら彼は1ヶ月3万円のタバコ代を支払うことになる。これは彼の障害年金の半額近い。

税金から出ている障害年金の半額近い額を、税金として還付することになる。

タバコの値上げは、精神医療の業界では、一般に考えられている以上に種々の問題を孕む大事件だと思う。

その理由は、「タバコを吸うこと」は、精神疾患のout of controlの問題も含まれており、「タバコは嗜好品」だけの問題に留まらないからである。

参考
タバコを吸うと幻聴が出るという話