何で良くなったか?の変遷、主治医との見解の相違 | kyupinの日記 気が向けば更新

何で良くなったか?の変遷、主治医との見解の相違

全快に近い状態になると、たまに、自分は何で良くなったか?という話になる。

例えば、ある双極性障害の患者さんが、自分はトロペロンで良くなった。助けられた。

と語った時のこと。僕に言わせると、彼女は厳密に言うと、デパケンRが良かった。時系列的に言うと、

①初期に生まれて初めてデパケンRを使ったこと。

②トロペロンが意外に賦活に有効だったこと。

③ある時期にブプロピオンを使ったこと。

④サインバルタとベンラファキシンを併用し、ブプロピオンを中止したこと。

⑤併用でセロクエルを700mg以上使ったこと。

⑥3年位してやっとラミクタールが効き始めたこと。


が良くなった大きな理由である。つまり、1つを選べば、やはりデパケンRを使ったことが大きい。そのくらいのウェートがあると個人的に思う。全てはデパケンRから始まったのである。

デパケンRの次は、おそらくベンラファキシンだと思うが、初期に使った時は失敗している。不思議なことにサインバルタと併用することが良かったのである。(サインバルタ20mg、ベンラファキシン75mg)

一般に、抗うつ剤は単剤より複数の薬を使うほうが改善率が上がるとされている。もちろん、単剤が理想だが、その方法ではうまく改善しないケースも多い。これは高血圧、つまり降圧剤の処方手法に似ている。


セロクエルを700mg以上使ったときに、「振る舞い」が変わるのは本人が発見している。全く別の男性患者さんによると、セロクエルの高用量はかえって過食が出なくなるということも聴いたことがある。彼女の場合、セロクエルで過食も肥満も出ないが、高用量だとうつにも躁にも有効なのである。

彼女が「トロペロンで良くなった」と自ら言うのが不思議でならなかった。なぜ、トロペロンなのか聞いたら、「トロペロンでうつと希死念慮」が吹っ飛んだからという。

たぶん、トロペロンを使ったときのインパクトが大きかったんだと思う。

トロペロンは今はあまり使っていないし、過去に効かない時期もあったので、決して万能薬ではなかった。

高校生くらいの若い患者さんにトロペロン2アンプルを筋注した話が過去ログに出てくる。つくづく、トロペロンは謎の多い薬だと思う。

このような医師と患者さんの感覚のズレは、意外に多いような気もする。しかし、このような話はあまり患者さんとしない。

このような見解の相違には意味があるのであろうか?と思う。

「何らかの薬がとても良かった」という感覚は、薬物治療のモチベーションの維持にとても重要である。それはサッカーで言えば、まず1点先取することに他ならない。


難しい人は、1点取るまでが大変だからである。