「パキシルは幻聴に効くのか?」の補足 | kyupinの日記 気が向けば更新

「パキシルは幻聴に効くのか?」の補足

彼女は長く幻覚妄想が続いている時に、平凡にパキシルやデプロメールを使っても、あまり芳しい結果にならなかったと思われる。なぜなら、前医の紹介状に、パキシルやデプロメールを使っていたという内容も記載されていたからだ。

彼女の経過をみると、やはり薬物療法には病状推移のタイミングがあり、それを逸すると迷宮に入り込みやすいことを示している。現代社会の精神科の多剤大量療法は迷宮の中で彷徨っている感じなんだと思う。

あと、精神疾患は対症療法だとはいえ、その人が何の疾患なのか、真の診断が非常に重要であることがわかる。診断が正確になされていないと、可能性のある治療方法が思い浮かばないし、自信を持って処方できない。

どのくらいの覚悟で処方しているかで、経過観察する時間も変わってくる。今回のケースはそうではないが、適切な処方をしても、当初はかえって悪化しているように見えることもある。漢方でいわれる瞑眩現象(好転反応)は西洋薬にも生じうるからである。

今回の彼女の治療経過は、いかにも僕の患者さんっぽいと思う。それは過去ログにもあるが、僕の悪性症候群や器質性疾患の考え方がよく反映されたものだからだ。

うちの病院で2年くらい前から働き始めた女医さんがいるのだが、彼女は指定医ではあるものの、それほど臨床経験が多くはない。彼女によれば、僕は特に難しいタイプの女性患者さんの治療が非常にうまいらしい。「あれは凄いと思った」という話が医局で出たので、てっきり、この患者さんのことかと思った。

ところが、そうではなかったのである。

ちょうど同時期に入院していた別の発達障害系の女性患者さんがいて、この人のことであった。あれは本当に驚いたと言うので、「確かにあの子も良くなったけど、○○先生は全然診ていないじゃん?」と僕は言った。

彼女は入院日から退院日まで個室に引きこもっており、病棟には出て来はしなかったからである。もちろん、食堂にも出てこない。見ていないものを凄いといわれても・・と思ったのであった。

彼女が言うには、入院した日と退院した日しか見た事がないが、あまりの変わりようにびっくりしたと言うのである。(いつかアップするかもしれないが、今回のパキシルの人よりドラマ性がない。この人の方がずっと発達障害っぽい)

僕は(今回の)彼女についてもうまくいったと思わない?と聞くと、彼女も確かに良くなっているが、あのくらいは僕にはよくあることなんだという。(誉めてくれているだと思う。たぶん)

よく考えると、あのパキシルの人は良くなったのは良くなったが、ブログに書いた詳細を知らないと、その思考過程がわからんよなぁ・・と思った。彼女はこのブログは知らないわけで。

彼女が女性患者の治療がうまいと言ったことについて外来婦長に話してみた。婦長によれば、うちの病院はもともと難しいタイプの女性患者さんが紹介されて来やすいらしい。女性患者がなぜか多いというのである。

結局、女性の難しいタイプの患者さんとは、女性によく見られる免疫系疾患ないし婦人科系の症状精神病がこじれたような病態なのであろう。これらは過去ログにもあるように、劇的に治癒または寛解している人が多い。(参考1参考2

また、いつかも書いたが、僕のこのような処方こそ、薬剤師には意味不明に見えるのである。薬剤師も本人を薬剤管理の時に見ているからである。

幻聴があるのに、何が悲しゅうて、ジプレキサを中止してパキシルを処方しているんだろう?といったところであろう。

今回の彼女は、いったんジプレキサの離脱で身体的に悪化した局面から一気に反転して軽快している。

結局、倒れても、タダでは起きないのであった。