電撃療法ダブル4日間 | kyupinの日記 気が向けば更新

電撃療法ダブル4日間

総合病院に勤めていたとき、ボスの患者さんが日本刀を持参で外来にやってきた。「ぶっ殺したる!」と言い、診察室でそれを振り下ろした。机にはその時の刀の切れ込みがくっきり。こういう患者さんは普通に措置入院になるのだが、その後、病状の悪いこと。かなり服薬しているのに、周期的にスペシャルに悪くなるのである。ある時ボスに呼ばれて、何を言われるかと思ったら、あの患者をやると言われたのである。そんな患者、僕もいらないんですけど・・

医師・患者関係から言えば、ボスを殺しに来た患者を治療してもうまくいくはずがない。僕はボスの気持ちもよくわかったのである。結局、お互い相性が悪いと思う患者さんの2対3トレードが成立。僕はその病院を辞めるまで、その患者さんの面倒をみた。

悪くなると、セレネース5アンプルの静注をしばらく実施する。超絶の服薬をしているのになんで悪くなるの? その後、彼はセレネースの5アンプルの静注よりは、トロペロンの4アンプルの静注の方がより効果的であることに気付いた。セレネースは5mgアンプルだが、トロペロンはなぜか4mgアンプルなのである。力価的にはトロペロンが1.3倍上回るので、実は、このアンプルはほぼ互角になっている。効果の違いは個人差なんだと思う。相性というか。

悪くなり方にもランキングがあり、セレネースやトロペロンが無効クラスの悪化があった。そういう時は、拒絶、興奮が酷くて注射ができないのである。無理にしようとするとこちらが怪我をするか、死亡すると思う。こういう時は、放置すると病棟で殺人事件が起こりかねないので、速やかに保護室に入れる。電撃療法をするわけだが、ダブルでのべ4日くらい必要だった。薬も与えず、ただ保護室にいれておけば良いと思う人もいるかもしれない。しかし、保護室に食事さえ届けられない状況なので、それも無理なのである。保護室で、○○さん、と声をかけた時、振り向いて「ニヤリ」と笑うのであるが、あれはやめてほしかったっす。

1日目の電撃療法が終わると、ちょっとだけ険しさが減るが、暴力的な面は全然かわらない。

2日目が終わると、一応、少しだけ話ができるようになる。表情は硬いけどね。1日目と2日目の差は大きい。

3日目が終わると、だいぶん中の人が変わるというか、保護室から出せそうな感覚になるのである。

4日目が終わると、ニコやかになるので、話もはずむ。ではそろそろ出ましょうかねぇと言ったところ。

いつもほぼ同じ改善パターンなのであった。彼の場合、5アンプルとかの世界なので、電撃療法の方が、むしろ体に悪影響が少なかったと思う。注射だと上の数倍の時間がかかるからだ。ある時、唖然とする出来事が起こった。4回目をした後、最初の状態に戻ったのである。3回目までは順調だったのに。あの3回はなんだったんだ・・

猛烈に悪いのだけど、もうそれ以上電撃療法をする気がしなかったのである。結局職員に押さえてもらって、トロペロンを6アンプル(24㎎)静注していたら、しばらくしたらなんとか良くなったのであった。その後の電撃治療では、そんなことは起こらなかったので、その時だけはちょっと違っていたんだと思う。本当、電撃療法って不思議な治療法だよなぁ。

トロペロン6アンプルなんて、このブログをみてる人は驚くかもしれないけど、国立病院などで朝、3アンプル、夕、3アンプルなんて言う治療をしているのをみたことがあるし、その後他病院に移籍した後にも同僚がそんな治療をしているのを見ているので、多くはないだろうが、存在する薬物治療なのである。現在は、僕は1日量としては、トロペロンは3アンプルまでしかしない。全国の精神科病院では、このクラスの患者さんはそう多くはないだろうけど、きっとある程度の人数はいると思うよ。

参考
電撃療法