タバコ | kyupinの日記 気が向けば更新

タバコ

精神疾患の患者さんは一般人口より喫煙率が高いことが知られている。 入院患者や外来患者での喫煙率の調査では、80~90%くらいの結果が多くなっている。 これは一般人口の男性52.2%、女性13.3%に比べ明らかに高い。(日本たばこ産業株式会社:平成10年喫煙率調査) なお、近年、日本人の女性の喫煙者が増えているような感覚があるが、これでも先進国中では女性の喫煙率は圧倒的に低いのである。

精神疾患の患者さんがタバコを好むのは、いくつか考え方がある。 まず、タバコに含まれるニコチンの作用がなにがしか精神症状にメリットを与えており、その作用を求めて喫煙するのであろうというもの。 ニコチンは脳内の伝達物質の量を変化させ、適度の鎮静効果とそれとは逆の作用の覚醒効果を併せ持っているといわれる。 一般の人の喫煙者でも、イライラしたり集中できない時にタバコが吸いたくなるという。

僕はタバコは吸わないのだが、学生の頃、友人(もちろん医学部の)がタバコを吸い始めたきっかけは教養科目の生物学実験や臨床科目のレポートの作成であった。 タバコを吸うと集中できるという。このようにある種の精神面の鎮静効果がタバコにはある。 当時、医学生は結構喫煙率が高かったような気がする。少なくとも、僕の身近な友人の中ではタバコを吸わない人なんて全然いなかった。 彼らは内科に行く人が多かったので、最終的にやめなくてはならないので辛かったと思われる。(もちろんやめなくても良いが)

ある友人はなんと循環器内科に行っており、現在第一線でバリバリ仕事をしているが、まさかまだタバコを吸っているということはないだろうな? ある友人は現在でも1日40本吸っているがあまりやめる気はないようだ。というかやめるにやめられないのだろう。 最近、うちの病院の近くで小児科を開業するということで、ある小児科医が挨拶に来ていた。何が気になったかというと、あのタバコ臭さだ。子供を診るのにあのようなタバコ臭い状態でよいのであろうか?と人ごとながら心配した。 しかし近年になり、若いドクターに関しては喫煙者がかなり減少しているようなのである。 これはうちの同門会の際に医局秘書がそんな風に言っていたので、たぶん間違いないだろう。 現況、年配の医師ほど喫煙者が多いという傾向はある。

さて、タバコと精神科患者さんの話であるが、ニコチンには肝臓に働きかけて向精神薬の代謝を亢進させるため向精神薬の血中濃度を低める作用がある。(体内からの排出も促進しているという話もある) これは特に非定型精神病薬のジプレキサは有名で、ヘビースモーカーでは何割り増しかの薬物を服用しないといけなくなるらしい。 またニコチンは脳内のドーパミンの量を増やし働きを強める効果があり、特に抗精神病薬の嫌な副作用(錐体外路症状)を軽減する効果も持つ。 ニコチンは上記の鎮静効果とは逆に頭の働きを少しはっきりさせ元気にさせる効果も持つのである。 患者さんはそんなことを多分意識していないのだろうが、おそらく喫煙の習慣の原因になっていると思われる。

タバコの有害作用は、例えば肺癌などの発癌性のようなはっきりしたものと、じわじわ影響していくようなものもみられる。 タバコは慢性閉塞肺疾患(COPD)の原因になっているし、血管には確実に悪いといわれており、まれに慢性動脈閉塞症にまで至る人もいる。統合失調症で比較的多く見られる糖尿病は、やはり血管に有害作用があるからである。

精神疾患の患者さんの突然死の原因は、まだよくわかっていないことも多いのだが、不整脈などの心疾患と肺梗塞が指摘されている。 肺梗塞は、いつだったか、サッカーの日本代表の高原が起こした疾患でマスコミ的には「エコノミー症候群」と呼ばれた。 これは航空機内のような狭い場所に長時間座っていること、水分をあまり摂らずに寝ていたことなどが原因になっていたようだ。また機内の気圧の関係もあるかもしれれない。 当初、「高原が肺炎で入院」と新聞に出ていたが、実際2chのサッカー板では「あれほどのスポーツマンの高原がなぜ肺炎なんだ」という感想が出ていたが、全くその通りで、最初は誤診されていたのであった。 このように肺梗塞は診断が難しい。過去、突然死を来たした精神科患者さんで、肺梗塞が原因だった人はわりといると思われる。

最近、精神疾患の肺梗塞の頻度を調査しているようで、うちにも調査書類を送ってきていたが、うちのような病院に送ってくるなと言いたい。国公立病院ならまだしも。 だいたい自分が論文を書くために、つまり出世のために、まったく関係のない人を使うのは最低だと思う。 いきなりああいうのを送られても、いざ調べようとすると大変なのである。 どうも、このような血が固まりやすい系の病気はある一定水準で精神疾患ではあるようであるが、基本的に本人の要因(精神疾患であること、向精神薬を服用していること)と、タバコが間接的に影響しているようには見える。 他、軽微なものでは、喫煙は口渇を助長し、水中毒などの二次的な有害作用にもかかわっていると思われる。 少なくとも、タバコをやめさせれば水中毒はかなり減少するようなのである。