この扉を前に 俺は何度深呼吸しただろう…


扉は開いても


君の心は いつだって閉じたままだ…




コンコン… それでも俺は ノックし続ける




「…いらっしゃい…久しぶり…」




君は そんなに美しかったのか…


見てはいけないものを見ているように


直視できずに


視線を落とした…




何も言えない俺に


彼は 手を伸ばして 言った



「…寒いでしょ…? 早く入って…」



その手を握り


そっと顔を上げると


柔らかなほほ笑みが 俺を見つめていた




何も変わらない 君の部屋


なのに 何もかもが変わってしまったようにも感じて


いつもなら もう すっかり指定席になってるはずの場所にさえ


座れずに 立ち尽くしていた




「…どうしたの…? 座って…」



その声に ようやく 我に返った




「コーヒー切らしてて…紅茶でいい?」



「…うん…」



虚ろな心で 返事をした





いい香りが漂い 暖かさを感じられるようになり


少し落ち着くと


余計に 苦しさが 鮮明になっていく


君はどうして そんな風に微笑んでいられるんだ?


ドンへの話は 嘘なのか…?


怖くて 切り出せない…





「…はい、どうぞ…いい香りだと思わない?


 アールグレイ…僕 これが好きなんだ…」



いつもと変わらぬように


彼は カップを手渡して 俺を覗き込む




「…うん…いい香り…」



喉元まで出かかる言葉を飲み込んで


ただ それだけ言うのが精一杯で…


俺は 冷えた指先を温めていた





「忙しかったの…? メールもないし、心配した…」




まるで 何事もなかったかのように…


会えない間 俺がどんな気持ちでいたかなんて


君には 想像もつかないんだろう



ソンミンの その一言が 


無性に俺の心をかき乱した






「ソンミナ…その言葉 そっくり返すよ…


 君は 俺に会いたくはなかったのか?


 俺の声を聞きたいとは思わなかったのか?


 メールはもらうもので 送るものじゃないとでも言うのか…?」




どうしようもない心が 


堪えようと思っても 閉じた扉の隙間から噴き出す





「…キュヒョナ…どうしたの…怒ってるの…?」



ソンミンは 驚いたように 俺を見つめた





「…どうしたの…?


 俺が聞きたいよ… どうしたんだよ? 何があったんだよ?


 オレは ずっと…ずっと 君を求めて


 君に会いたくて… 君の声が聞きたくて…


 でも、どうしても 君に求められたくて


 君から 求めて欲しくって…


 それなのに 君にとっては 俺なんか二の次、三の次だ


 ドンへの次…そして… そしてっ… 」




やめろ… もうやめろっ…


自分で自分を抑えられない


誰か俺を止めてくれっ…




「…キュヒョナ…」




不安げな顔で 見つめる彼を


俺は 乱暴に床に押し倒した





「…やっ、やめてっ…キュヒョナっ!」




抵抗する彼の身体に のし掛かり 手首を押さえつけ


その唇を奪った




「…っんんっ…んっ…!」




激しく抗おうとする彼の頭を両手で抑え


きつく閉じた唇に 舌をねじ込むと


小さく 喘ぎ声が漏れた


自由になった両手で 俺を押し返そうとする


無駄だよ…もう止められない…




熱い舌で 彼の舌を追いかける 息が苦しくなる


抵抗していた彼の両手から 力が抜けていく


そっと唇を離して 彼の瞳を見つめた


彼は 肩で激しく息をして 


上気した顔で 俺を見ていた




「…ごめん…俺を許して…」




そう言って もう一度 柔らかな唇にくちづけた


何度も…何度も…


その甘さを確かめ 熱さを感じて


粘膜を味わう感触に震える


俺だけ…そう言ってくれ…嘘でもいいから


愛してくれ…今だけでも…ただ一度だけでも




「…キュヒョナ…どうして…?」




ソンミンの声に ハッとする


潤んだ瞳で じっと見つめる彼を


俺は見下ろしていた




「…俺を…愛して…お願いだから…」




彼の頬に 涙が落ちた


俺の涙が…




ソンミンの指が そっと俺に伸びて


優しく 拭ってくれる


何度も… 何度も…


そして その指で柔らかく俺の頬が包まれると


ゆっくりと 引き寄せられ


彼の唇が 僅かにそっと開いた




初めての 彼からのキスは


涙の味がした…