地下鉄は いつも通り混んでいて


でも いつもと違うのは 混んでるのが 嬉しいって事…



ソンミンの身体を支えるように 寄り添って立つと


自然と 愛しさが溢れてくる




どうして 好きになったんだろう…


俺の心を 何故かわかってしまう


君に聞いたほうが いいのかもしれないな…





「駅から ちょっと歩くけどいい?」


ソンミンが 俺を見上げた


「いつも通る道を いつもどおりに歩いてくれたらいい…


 ソンミナのこと 少しでも知りたいから…」


正直な気持ちを そのまま伝えると


彼は 急に小さな声で


「そんなこと 言ったら 恥ずかしいじゃん…」


そう言って うつむいた


何て 可愛い人なんだろう


抱きしめたくなった






あの日 俺が駅を降りるとき


「僕は もっと先…」


確かそう言ったね…?





「…えっ…ここ…? すごい近いじゃん…!」


「うん、あの時 本当にびっくりした… きっと会えると思ったよ」




本当に 会いたかったなら 何故…?


ふた駅違いだね…って 言ってくれたら…


うれしさと 淋しさとが 綯い交ぜになって


複雑な思いで 電車を降りた





駅からの道は 人影もまばらで


もし今夜 君が一人で帰ってたら


淋しかったんじゃないか… そう思った


俺の 思い上がりかもしれないけど


俺が そばにいられて よかった… そう思ったんだ





「家に何もないけど 何か買って帰る?」


コンビニを指差して ソンミンが尋ねた


「じゃあ ビールでも…」


「これから飲むの?」


ソンミンは 目を丸く見開いた


本当に 可愛い人だ


くるくる変わる表情… 笑うとこぼれる白い歯まで


可愛くて仕方ない





「いいじゃん、付き合ってよ、明日休みでしょ?」


俺は 彼の肩を抱いた


「わかった、でも知らないよ…僕 絡むかも…」


「その時は もっと飲ませて 潰す!」


二人 顔を見合わせて笑った





ビールと ちょっとしたものを つまみに


君と 一晩中でも話していたい


君を知りたい  俺を知ってほしい


君が 誰を好きでも


今この時を 二人で過ごせるなら


それでいい…


そんな気持ちだった






駅から 10分余りの 静かな住宅街の一角に


ソンミンの住んでる部屋があった


鍵を開けて 真っ暗な部屋に入ると


彼は すぐに 明かりをつけた


毎日 こうして 冷たい暗闇の中に帰るのか…


家族と暮らす俺にはわからない 孤独を見る思いだった





「狭いけど そのへんに座って…」


ヒーターのスイッチを ポンと押しながら 彼は言った


「ああ、うん… お邪魔します…」


確かに お世辞にも広いとは言えないが


スッキリと片付いて 清潔感があった


大学の友達のアパートなんかとは 大違いだった


俺は ベッドに背を向け 寄りかかって 座った




「何か 着替え貸そうか?」


見ると 彼はスーツの上着を脱いで それをハンガーに掛けていた


ドンヘと抱き合っていた姿を思い出した



「俺は 別にいいよ…」



そっと 目を伏せた


視界の隅で ソンミンが服を着替えているのがわかる


何だか 胸が苦しいような感覚に 戸惑った





「じゃあ ビール飲む?」


トレーナーとスウェットのパンツに着替えた彼が


俺の隣に 同じように ベッドにもたれて座り


ビールを手に 乾杯した


「二人の再会に…」


「乾杯…」


グイっと飲むと いつになく 苦く感じた




「すぐあったまると思うけど…それまでこれで我慢して」


そう言って 彼は 厚手のチェックの毛布を 二人の膝にかけた


「仕方ないなあ…じゃあ こうして…」


俺は ソンミンにぴったりくっついた


「…あったかいけど…何か 動きにくい…」


腕と腕がぶつかって 窮屈な感じがするのは確かだ


「じゃあ これでどう…?」


俺は ぶつかってる方の腕を ソンミンの肩に回すように


ベッドの上に乗せた




「うん…狭くない…」


彼は うつむいて 小さく頷いた


このまま 肩を抱いてしまいたい


でも やっぱりここではできなくて ほんの少しだけ触れるくらいに…






俺たちは 互いの生い立ちや 家族の話


今取り組んでいる仕事や 研究の話


俺の大学での様子や 友達の話…


パズルのピースを 一つずつ埋めていくように


打ち明け合った




そして 叶わぬ恋の話…




「ドンへに結婚するよう勧めたのは 僕なんだ…」


ソンミンが つぶやいた



「別れるつもりもないのに…?」


責めてるように 聞こえただろうか…?



「別れることになるだろうって 思ってた…


 ドンヘは 別れないって言ってくれたけど


 きっと 家庭を持ったら 変わると思ってたし… でも違った…」


ソンミンは うつむいて 毛布の中で膝を抱えた





「ドンヘは 時間があれば ここへ来て


 僕を求めてくるんだ…


 ミナさんとは 夫婦の実質的な関係は無いって…」


生々しい会話に 息苦しいような気分になる



「それ 信じてるの…?」



俺は 信じられなかった



「ドンヘは 嘘つくの下手だから…でも 騙されてるのかもね…」


淋しそうな横顔に 


俺は なんてひどいことを言ったのかと思った


ただ彼の心に そっと寄り添うだけでよかったのに…




「…ソンミナ…」




俺は 耐え切れずに 彼の肩をぎゅっと抱きしめた


彼の頭が ゆっくりと 俺の胸に傾いて


ふわっと 髪の香りがした



キスしたい…



耐え難い衝動に 身悶えしながら


身体の疼きを 逃すことに 俺は必死だった…