「何で 一生結婚しないって思うの…?」




俺は 人の心に踏み込むのが苦手だ


なのに 何故か この人にはつい…




「…いつも 好きになる人は 結婚できない人ばっかりなんだ…」




まっすぐ前を向いたまま 彼はそう答えた


不倫か…? 意外だな…


あ、それで 新郎新婦の姿を あんなふうに…


思わず彼の全身を 舐めるように見回してしまった




「…今 ひいたでしょ…」



彼は 柔らかく微笑んでいた



「別に…人生いろいろだし…」



何が言いたいんだ 俺は…



「そう…? 物分りいいんだね…無理してない?」


「いや、そんな珍しいことじゃないでしょ…?」


ドラマの世界なんかではね…




「親とか 普通に結婚するのを期待してるんだろうなって思うと…


 憂鬱になるよ…」


彼は 何杯目かのマティーニを飲み干して 


空っぽのグラスを見つめ ため息をついた



「親って結局は 子供が幸せならそれでいいんじゃないの?


 どんな相手でも その人が幸せだと思ってるんなら…」


俺に 親の気持ちがわかるわけもないのに


わかったような口きいて…


「…幸せねぇ… どうなんだろ… 好きだけど…


 幸せなのかって言われると わかんないなぁ…」




幸せってなんなのか…


答えの出ない難問を 二人話しながら


気づけば 長い時間が過ぎていた


新しい酒を頼もうとする彼の手を 俺は思わず押さえた


「飲みすぎだよ…もうそれくらいにしたら…?」


彼の手は 小さくて 柔らかく


まるで 女性のそれのように 艶やかだった


「…そうだね… これ以上飲んだら 君に迷惑かけるかもね…」


彼は その小さな手を引っ込めて つぶやいた



「そんなことは 構わないけど…身体に悪いよ」


彼の 気だるそうな表情が 気になっていた


「フフ… 落ちこぼれって言ってたけど 


 案外 いいお医者さんになるんじゃないの? せ・ん・せ・い・・・!」


「先生」なんて 気恥ずかしいのと


カウンターに 頬杖をついて 俺を見つめる彼の目が


妙な色気を放っていて 変な気分になる… 




「…からかわないでよ…」


俺は 思わず視線を逸らせた





「…帰りたくない…」


「…えっ…?」




このシチュエーションで 女の子から言われたのなら


これは 間違いなくお誘いだろう


でも 彼は男で… なのに 俺は一瞬 ドキっとした




「でも もうやめたほうがいい…家は近いの?」


俺は そう尋ねた


「ホテルとってあるんだ…」


そう言って 彼は カウンターに置いた自分の腕に 


ゆっくりと 頬を寄せた



「どこのホテル?」


「…Rホテル… 」


新郎新婦が 今夜泊まるホテルじゃないか…


「送るよ…タクシー呼ぶから…」


「…いいよ… 歩きたいから… 大丈夫 明日休みだし ゆっくり歩く…」


そう言って 彼は立ち上がった


フラッと その身体が揺れるのを 思わず支えた




「やっぱり送るよ…」


そう言うと 彼はにっこり笑った


「じゃあ 一緒に歩いてくれる…? だめ?」


まるで 恋人に甘える女の子のようだ


黙ってれば 結構男らしくてかっこいいのに…



俺たちは 会計を終えると 店を後にした


夜の街は まだ眠らない


恋人たちが 駆け引きを繰り広げている


俺は 彼とつかず離れずの距離を保って 歩いた




「ねえ、君は 恋したらどんなふうになるの?」


突然の問いかけに 俺は 何て言うべきか迷っていた



「どうって… 別に… ちょっとぐらいテンション上がるかなぁ…」


俺の答えに 彼はケラケラ笑った


「たぶん それって恋じゃなかったんじゃないかな…?」


ちょっとムッとしたが 言い返せなかった


事実 そうかもしれないって 思ったんだ…




「…恋って もっと苦しいものじゃない…?」


そう言って彼は 夜空を見上げた


細い三日月に 雲がかかっていた




そうだろうな… 彼にとっては そうなんだろう


秘めた恋  そうせざるを得ない恋


そんな恋ならば…




「穏やかで 温かい そんな恋だってあるよ…」


俺の言葉に


「…そんな恋ができたらいいのに…」


そう言って うつむく横顔が やっぱり淋しげで


思わず その肩を抱いた




「大丈夫 できるよ… 俺が応援するから…」


何をやってるんだか… 酔ってるのか…?


自分のやったことに 自分が驚いていた



「…じゃあさ、今夜 一緒にいてくれない?」


「…えっ…?」


「何だか 一人でいたくなくて… 都合悪い?」


「いや… 特に用事はないけど…」


「じゃあ 決まりだ… 無理言ってごめん… 呆れてるね…?」


「呆れてるわけじゃ… ちょっとびっくりしたけど…」


ドギマギして チラリと隣を盗み見ると


笑ってる横顔が 綺麗で


喜んでくれたんだと思うと 何故か幸せな気持ちになった



土曜の夜なんだ  いいじゃないか…


俺は 自分に言い訳でもするように 


心の中で つぶやいた



「あの… まだ名前聞いてなかったよね…」


俺の問いかけに


「やっぱり 普通名乗るよね… 知らないのもいいか…って思って…


 ソンミン… イ ソンミン… 普通でしょ?」


彼は そう答えた


「俺は チョ ギュヒョン… ソンミン… いい名前だと思うよ」


まるで 恋でも始めるみたいに ドキドキして


飲みすぎたか…?  そう思っていた




心の奥に 芽生え始めていた感情に


まだ 気づいてはいなかったんだ…