部屋の中は きちんと整頓されていて
狭いけれど 清潔感があった
ソンミン同様 余計なもののないその空間に
一か所だけ 家族の写真が何枚も飾られていた
ソンミンと二人で撮った写真が 一枚だけあった…
「私の両親です もう何年も 私の帰りを待っています」
ハンギョンは そう言いながら
不思議な香りのするお茶を 淹れてくれた
「…いただきます…」
一口飲むと 花の香りのような感じがした
「キュヒョンさん…今日は 大家さんとしてきたんですか?
それとも ソンミナの恋人として…?」
ハンギョンは 柔らかなほほ笑みを浮かべながら言った
「俺が ソンミンの恋人なんかじゃない事は
あなたが一番よく分かってるはずでしょう…」
こみ上げてくるものを 俺は 必死で抑えていた
「ソンミナから聞いていませんか? 私たちは もう別れたんです」
ハンギョンの 冷静さが 耐え難かった
「それは あなたの本心からですか?
そうじゃないんじゃないですか…?」
俺の問いかけに ハンギョンは視線を外した
「私といても ソンミナは 幸せになれない
私は いずれは中国へ帰る…普通に結婚するつもりです」
「最初から そうなる事が分かってたのなら
どうしてソンミンの事を 愛したりしたんです…? どうして…」
泣きそうな ソンミンの顔が浮かんだ
「ソンミナは魅力的だった…そして 私は 孤独だった
彼を愛したのは 必然だったんです…」
ハンギョンは 二人の写真を手に取り じっと見つめた
「あなたは卑怯だ…ソンミンの心を奪っておきながら
彼を 愛そうとしない…」
俺は 自分を抑えるのに必死だった
「彼を愛してた…いや、今も愛している
でも 家族を棄てる事は出来ない…
愛してるからこそ 彼から距離を置いているんです
自分を抑えようと…」
ハンギョンも 苦しんでいると言うのか…?
沈黙が訪れ 俺は 自分が何をしたいのか分からなくなっていた
「キュヒョンさん…ソンミナは あなたが自分で思うよりもっと
あなたの事が好きですよ…」
「…えっ…」
突然の言葉に 俺は動揺を隠せなかった
「ゆうべ 店で ソンミナがギターを弾いた時
あなた 一緒に歌ったでしょ?」
「…えぇ…」
「これまでも そう言う人は何人かいました
かなり上手い人もいたんですよ
でも ソンミナは 相手の音に合わせようとしすぎて
いつも 自分の歌に 心が乗らない 不安定になるんですよ
でも あなたとは そうならなかった…
ソンミナは あなたに心をゆだねるように 安心しきっていた
ただ思いのままに 自分の歌を歌ってた…
あなたは 特別だ… あなたを信じてるんだと思いますよ ソンミナは…」
そうなんだろうか…ホントだろうか…
俺には 分からなかった…
「ソンミンの目には ハンギョンさん あなたしか映ってませんよ…
俺じゃない…」
何を言われても 俺は自信が持てなかった
「そうでしょうか…? 私の事も映ってないのでは…?
ソンミナが 私を追い求めるのは 去りゆく者への執着です
あるいは 去られることへの恐怖…そう思えてならないんです」
ハンギョンの言葉が 俺の胸に刺さった
ソンミナ…そうなのか…?
『…何でだろう…執着してしまう…』
確かにそう言っていた
ソンミナの心の傷が うっすらと見えた気がした…