車を走らせながら お互い何も言えずに


ただ 流れる景色に 身をゆだねていた


それでも 気まずいわけでもなく


俺は この現実を 静かに受け止めていた



 『 人生 すべて必要あっての事… 』



ばあちゃん…俺には これが必要だって言うのか…



シェアハウスに着くと もう午後になっていた


「おかえり…何処行ってたんだ…?」


ヒョクチェが 険しい顔で問いかけた


「ごめん…午前中空けといてって言っときながら…」


「そんなこといいけど…心配したんだ…何処行ってたんだよ」


「ごめんね、ヒョク…僕が悪いんだ…」


ソンミンが ヒョクチェの腕を取った


「いや、俺が悪いんだ…ソンミナ 少し寝ないと…」


俺は ソンミンの肩を抱き 部屋へ連れて行った




ソンミンを寝かせ 俺はリビングに戻った


頭の芯に 鈍い痛みを感じていた


「キュヒョナ…何があったんだ…?」


ヒョクチェが 俺に詰めよった


「ごめん…コーヒー淹れてからでいい…?」


ゆっくりと 丁寧に じれったい時を刻みながら


コーヒーの香りが 心を落ち着かせてくれるのを 待った



二人分のコーヒーを入れ ソファーに腰掛けた


「昨日からこっち 随分いろいろあったんだ…」


ヒョクチェに 昨日食事に行ってから 


今日ホテルから帰るまでの事を 全部話した



「天国と地獄を見たんだな…」


ヒョクチェは ポツリと言った


聞きたくない話だったろうに… 心で詫びた


「俺 もうどうしていいのか分からないよ…


 だけど どうしようもないんだ…それでも好きなんだ…」


コーヒーに 溜息が溶ける



「お前…気付かないか? 


 ソンミナは 変わってきてる…」


「…えっ…」


俺は ヒョクチェの言ってる意味が 分からなかった



「俺 これまでずっとソンミナを見てきた


 『嫌いにならないで』って言うのが ソンミナの口癖だった


 一度だって 『僕を嫌いになって』なんて言うの 聞いた事はない…


 誰の愛情も信じられなかったソンミナだけど


 お前の愛は 信じてるんじゃないか…?


 お前の愛が 変わらずそこにあるって 感じてるんじゃないのか?」


俺は どう答えていいのか 分からなかった


そうなんだろうか… 俺を信じてくれているのだろうか…



「ソンミナが お前にした仕打ちは 残酷だ…


 例え それが悪意からでなくても

 

 耐えられる人間なんて そういないだろう…


 でも お前はそれを受け入れてる


 ソンミナへの愛が そうさせるんだろう…


 ソンミナもきっと 無意識に それを感じてるんだと思う」


鼻の奥が ツンとした


分かってもらえるって言う事が 辛さを癒してくれた…



「俺も もっとソンミナを理解したい…支えたいんだ


 自分でも バカな男だと思うけど 


 愛してるんだ…」


ヒョクチェなら きっと分かってくれるはず


同じ想いを抱えてる俺たちだから



「俺 お前に賭けてるって言ったろ? 間違ってなかったよ


 必ず ソンミナを救ってやれる…できるよ…!」


ヒョクチェに 肩を掴まれた


その手の力が ソンミンを思う心の強さだと


そう思った




「ヒョク、ソンミナが起きてきたら そばにいてやってくれ


 俺 ちょっと行かなきゃいけないとこがある…」


そう言って 俺は 車のキーを握りしめた



ソンミナ…俺に 君を幸せにしてやる事が 出来るだろうか?


分からない…それでも 君を愛してる


俺が出来る事は どんなことでもやる


そう心に決めていた




車を走らせ 来た道を引き返した


俺のやろうとしてる事は 正しいのか分からない


でも そうせずにはいられない


さっき見た風景が 目の前に現れる


車を止めて 目指す場所へと歩いた


階段を上り チャイムを押した


「どなた…?」


薄めに開けられたドアの向こうに ハンギョンがいた


「チョ ギュヒョンです…ソンミナの…大家です」


そう言うと ハンギョンは


「…キュヒョンさん…どうぞ…」


そういって ドアを開けた


不思議と 俺の心は 落ち着いていた



ソンミナ…君を想う心が 俺の背中を支えてくれてるんだ