夕凪の 浜辺には 人気もまばらで


僕は 砂の上に腰掛けた


風が気持ちいい… 釜山の海を思い出す


ここも 釜山につながってるんだよね


波になったら 世界中 どこへでも行けるんだ


そんな事を思ってみる…




夕闇が 少しずつ 少しずつ 迫ってきて


僕の姿を 隠していく


たくさんの人に見られる事を 生業としている僕が


誰にも見られないで 消えようとしてる



風が だんだん涼しくなってくる


自分のしようとしている事が 怖くなってくる…


今なら まだ引き返せる


心の中で 誰かが囁く


じゃあ 他にどうやって自分を罰するの?


もう一人の誰かが囁く


覚悟は決めたはずなのに 



波の音が 規則正しく胸に届くと


少しずつ 心が静まる


じっと眼を閉じる


瞼の裏に浮かんだのは…… キュヒョナ…君だよ


ちょっと猫背で 時々はにかんだように笑う 


淋しそうな瞳や 饒舌な指


そして 僕が愛してやまない あの声…


もう一度 彼の歌を聞きたかったなぁ


その声に抱かれて 眠るようにいけたら…



愛してるよ… 僕のキュヒョナ…


水も漏らさぬくらいに 君を信じ切っていれば


誰も傷つけずに済んだのに


ごめんね…


黙っていってしまう事 君は許さないんだろうな…



僕は 立ちあがって 一歩ずつ波音に近づいて行った


まるで 引き込まれるように…




波が 僕の足先を招く…


家族の顔が浮かぶ…


僕のしようとしてる事は きっと間違ってる


でも それしかできない 許して下さい…



一歩踏み出す


波が 急に力を持ち始める


もう少し…残された時間はあと少し


愛した思い出も 愛された記憶も


全部 彼方へ運んで行くんだ


キュヒョナ…


もっと愛したかった


キュヒョナ…




僕の身体を すべて包み込むような


最後の波に


身を投げ出した…




空も地もない 青の渦の中


苦しみを抱えて 海に還る…


遠のく意識の向こうから 僕を呼ぶ声がしたような……





『ミニッ…ミニッ…!』



身体が 重い… 動けない…


暗いよ… 




『目を覚まして…戻ってきてっ…!』



どこにいるの…? 見えないよ…




『ミニーッ…!!!』



キュヒョナ…? キュヒョナなの…?



もう一度…逢いたい…





「…っん…うっ…」  夢から覚めるように意識が戻る


「ミニッ…俺だよ…!…分かる?」


「…キュ…ヒョ…ナ…」


「あぁ…ミニッ…よかった…よかった…ミニ…」


僕の頬に ポタリ ポタリと 雫が落ちる


キュヒョナ…泣いてるの…僕の為に…?


ギュッと抱きしめられて その温もりに ホッとする



ひとしきり泣いて 抱きしめて キスをして…




一転して キュヒョンの表情が 険しくなった


「ミニ… いったい何を考えてるんだ!? 


 俺が どんな気持ちで 走り回ったか…」


「キュヒョナ…」


「ミニがいないって気づいた時 すごく胸騒ぎがしたんだ… すぐ探し回ったよ


 幸い ホテルの従業員が ミニが乗ったタクシーを覚えてて


 すぐにタクシー会社に連絡したんだ でも なかなかわからなくて…


 その間が 本当に長く感じて もし何かあったらって… 」


「…ごめん…」


「やっとで この海で降りたってわかった時 身体が凍りつきそうだった


 ミニが 何をしようとしてるか 気づいたんだ


 俺 気が狂うかと思ったよ 」


「……」


「もう少しでも遅かったらと思うと 足が震える…


 暗くて よく見えなくて 心は焦りで正常じゃいられなくて


 そんなとき 声がしたんだ 一瞬…ミニの声が…


 俺を呼んだんだ  『キュヒョナ…』 って 」


「…ううん…心の中で呼んだだけだよ…」


「でも 聞こえたんだ…そして 見つけた…」



キュヒョンはもう一度 強く抱きしめた


「ミニ…後に残される者の気持ち 考えた事あるのか?


 タクシーでここへ来る間 どんなに自分を責めたか…


 もし ミニに何かあったら 俺ももう 生きていられない…」


「僕は 幸せになっちゃいけないんだ…」


「…ヘンリーも来てるんだ…」


「えっ…!」


「俺 プライドも何もなかった ヘンリーに 助けを求めたんだ


 思い切ってよかったよ 交渉はすべて ヘンリーがやってくれた


 だからここがわかったんだ…」


「ホントに ごめんなさい…」


「ヘンリーが こんな事 喜ぶとでも思ったか? バカだよ ミニは…」




遠くから とぎれとぎれに 声が聞こえる


ヘンリーが 呼ぶ声だ…


僕が キュヒョンに抱えられてるところに 走ってきた


「ミニ…あぁ よかった…無事だったんだ…神様ありがとう!」


ヘンリーも泣いていた…



「ごめんなさい…ヘンリー…僕…」


「ミニ…ニ度とこんなことしないって 約束して…


 僕はもう 前に進もうとしてるんだ 本当だよ…


 僕を思って苦しまないで お願いだから…」


ヘンリーは 僕の頬に 手を置いて そっとなでた


温かい手だった…



「さあ 早く帰ろう 身体が冷えてきてる」 


キュヒョンが 僕を包み込むように抱いてくれた



「今 チョウミが 迎えに来てくれるから…」


ヘンリーが 言った


「チョウミが?」
 

「あの人ね いろんなとこに顔が利くんだよ 謎だよ ホント」


ヘンリーが フフッと笑った


僕もつられて笑った… 



ヘンリー 僕も笑っていいのかな…


まだかすかに痛い心で 問いかけた