「あれから1ヶ月たったよ」
ジワリジワリ攻め込んでくる長男である
そう、あれは1ヶ月前
長男が遠くの大きなホームセンターへ買い物に連れてってくれたんだった
洗剤が激安で
お昼までご馳走してくれたんだった
その時はあえて書かなかったが
禁断のペットコーナーにも立ち寄ってしまったのだった
ゴールデンウィーク前の土曜日
家族連れで賑わい
それはそれは愛くるしい小動物が
これでもかと潤んだ瞳をからませてくる
そして、うちの長男は目をあわせてしまった
20万円前後の値札をつけられた中で
ろくまんえん
60000円です、ぼく
もうすでにワクチン3回接種済みです
ここからあとほんのすこーし大きくなるだけです
人気のシバのお母さんにベルジアングリフォンという聞きなれないお父さん
魔法使いの弟子みたいな黒いおひげ
ダメダメダメダメ
ふう子とビワおいるし
「とても甘えん坊で人懐こい子なので、ネコちゃんとも仲良くなれると思いますよ~」
お姉さん余分なこと言わんでください
てか抱っこしてるんじゃねー
あのね、犬はお金かけてやらなきゃならないの!
避妊に注射にフィラリア、毎日の散歩!
次男の学費でお母さん責任持てません!
「俺が面倒みる。金も払う」
ウソウソウソ、最初だけだってのはふう子で実証済み
駐車場からなかなか車を出さない
ゴールデンウィークできっと優しい飼い主が見つかるよ
じゃあ1ヶ月
1ヶ月たって売れ残ってて
お前の気持ちが変わらなければその時はもう一度考えれば
数日後
「おかん、分割オッケーだって。もし売れなかったら他の店舗を転々とするか、ブリーダーに戻されるらしい」
仕事帰りにわざわざ行ってきたな
そしてまた数日後
「はい、母の日。この前欲しがってたから」
あのホームセンターのシールが貼られた圧力鍋
確かにあの日
「あー、欲しいなーっ」
と言ったけど
そして
「あいつ、五万円に値下げされてた」
そして今日
圧力鍋で角煮を作った
美味しい美味しいとすごく喜んで
おもむろに「1ヶ月たった」と
すぐにあきらめると思ったのに
でもやっぱりダメです
責任持つってたいへんなんです
ハルコさんいなくなった時
もう犬は飼わないって決めたんです
おまえが欲しいフィギュアを次々買って
ごろごろ部屋に転がしてる
そんなのとは訳が違う
それにあの子はきっと大丈夫
ならばもっと切実に引き取ってやりたい子は山のようにいるんだよ
ごめんよ、魔法使いの弟子
あたしは自分の息子育てるのにてんてこまいで
大学に行かせなきゃならんの
おまえに何かあっても
十分な責任をとってやれるとは思えんのだよ
長男だって
ふう子に対する責任があるでしょ
ふう子だってどんどん年をとれば
病気にもなるし怪我もする
長男の給料だけでなんとかできるとは限らんの
だから、いい人に巡りあっておくれよ
お願いします
プリーズ神様
どなたか
小さな魔法使いの弟子を
これだからもう
ペットコーナーには近づいちゃダメなんだ