Cさん

本当にたいした話じゃないの
おもしろくもなんともないの
でも、コメ欄に書ききるかってと
それもちょっと失礼かなっていうか
なんでいっそここに書いときます




十代の終わり頃、学校が終わると足早に一番近い友人の下宿先に飛び込み

万年布団に足を突っ込み

明日のジョーの再放送を見てました




明日のためのその一、明日のためのその一を、私も模索しておりました




そんなある日、同じクラスの男が
「実はジムに通っていてデビュー戦がある」
と言うので

万年布団に足を突っ込んでいた数人で、後楽園ホールまで出かけて行きました




当日、なかなか来ない友人に電話をかけようと
手帳を広げ、公衆電話まで歩いて行くと
電話の前でニコニコした男性がこちらに手を差し出している

私は何も考えずに
「電話いいですか?」

男性はすっと真顔に戻り手を引っ込め
スタスタと行ってしまった

その後、ふと壁を見上げると
さっきのオジサンが拳をかまえた大きな肖像画

その下には

《ファイティング原田》



あああ、そうだったのかそうだったのか

そりゃそうだよね
後楽園ホールで若い娘が手帳を広げて近づいてきたらそりゃそうだわ

本当に失礼なことをしました

だってボクサーなんてジョーと力石しか知らなかったんだもの

しかもオジサンだったんだもの




その後の試合で友人は勝ち

あまりにおもしろく、ジョー以外も好きになりました





何年か前、ふとその時の話をしたら

「んもー、お母さん!なんでそういうんさ!失礼でしょ!気づいてあげて!」と
次男が眉間にシワよせて怒りました





今では二人してよくテレビ中継見ます

あの時ちゃんと気づいてサインもらってたら、次男にも自慢できたんかしら




とまあ、そんな話