前にも少し触れたこと。
小さい頃、父は単身赴任をしていた。
平日電話で話す事もなく、土曜の夜から日曜の夜までしか家にいない。
しかも、寝てばかり。
食事とトイレ以外は、カーテンを閉め切った部屋で大いびき。
声をかけようモノなら、やっぱり「やかましい!外で遊べ!」と怒鳴られた。
だから私は「時々家に遊びに来るオジサン」と認識していた。
その内、気付いたら毎日家に帰って来るようになった。
そう、会社の倒産である。
家から通える所に再就職をしたのだ。
多分多額の負債を抱えていたであろう時期、もちろん「新しいもの」を買って貰う事は皆無だった。
洋服など身に着けるものは、従姉妹、兄のお下がり。
七五三の着物も、小学校の入学式の服も。
男の子用でも平気で着せられた。
今になれば「大人の事情」も分かる。
でも当時、私にも分かる言葉で説明して欲しかった。
友人たちが新しい自転車を買って貰う中、私は近所の自転車屋さんで廃棄処分寸前の自転車を、タダ同然で引き取らせて貰って乗っていた。
恥ずかしかった。
結局新しい自転車を買って貰った事は一度もなかった。
当時、家の経済状況について、父から話をされた記憶はない。
とにかく父は毎日苦虫を噛み潰したような顔で過ごし、父が帰って来ると家の中は静まり返る。
そんな訳で、一家団欒を知らないまま大人になってしまった。
きこきこ