著者は、精神科医で神戸親和女子大学の教授。

産経新聞にコラムの連載もしておられ、分かりやすい文章を書く人です。はっきりとご自分の考えを述べておられるので、2chで炎上したこともありました。


まず、一番知りたかったことを書きます。

果たして、「うつ病の薬は本当に効き目があるのか?」という疑問です。自分の体験ですが、うっとうしい気分に陥り体調まで絶不調の時に受診すると、「うつですね、最近良い薬が出たんですよ、二週間で気分が明るく楽になります」と抗うつ剤を処方して下さいました。心療内科だけじゃありません。内科のお医者さんもそうです。で、効いたかというと、私の場合は”ぜーんぜん”。

私はうつじゃなかったのか、としたら何だったんだろう、ただただ「思うように仕事や家のことが進まず ”うっとうしかった”だけ、メランコリーではなかったのか」。そもそも、気分がへこむにはちゃんとその原因、理由があるわけで、それらを克服し解決する、情けない状況に打ち勝つ、それが出来なければ価値観や考え方を変えるしかないのではとも思うのです。しかしいずれもナカナカ出来ることではありませんが。


第二章「診断と薬がうつを作り出す」にはこうあります。

もともと うつは、神経伝達物質や遺伝負因などの生物学的要因と、ストレスや対象喪失などの心理的要因の十字路にある疾患で、定義が困難。精神医療の現場では、抗うつ剤を投与して「効いたら、うつ」と判断する経験主義がまかり通っている。


SSRIという、脳内の神経伝達物質セロトニンを増やす新薬が広く普及したことと、うつの患者がこの10年で倍増したこととは無関係ではないでしょう。医師は病名をつけないと薬の処方はできませんから。しかし、セロトニンの伝達不足がその患者の精神不調の理由ならSSRI投与も意味があるでしょうが、私の場合はどうだったのか。セロトニンは血液検査やレントゲン照射でわかるもの、数値や形で表せるものではありませんから、やっかいです。


心は見えません。精神医でさえ診断、判断がむつかしい心の病。

この本ではいろんな実例が紹介されています。

母親の自殺がトラウマに。転職デススパイラルの高学歴男性。プライドが勝ってしまう総合職女性。上司と部下の板ばさみで出社できなくなった中間管理職。夫への幻滅。うつを言い訳に家事、子育てをサボる主婦。

どこででも、誰にでも起こりえるケースですね。


著者は、うつを巡る諸問題とその経緯を冷静に分析し、現代社会の病理にまで踏み込んで問題提起をしています。評論ではなく、ルポルタージュのタッチなのも読み易い。