第1 設問1
1 Xが本件命令が発せられることを事前に阻止するためには,差止めの訴え(行政事件訴訟法(以下,省略する。)3条7項,37条の4)を提起する。以下,検討する。
2 差止めの訴えの要件は,①一定の処分,②蓋然性(3条7項「されようとしている場合」),③重大な損害,④補充性,⑤原告適格(37条の4第3項),⑥被告適格(38条1項,11条1項1号),⑦管轄(38条1項,12条1項)となる。
3(1)ア まず,①一定の処分とは,裁判所が審理する上で,特定されていれば足りる。
本件では,消防法(以下「法」とする)12条第2項により,Xに移転命令が発せられ,移転する義務が生じるため,特定性を満たす。次に,本件葬祭場の営業が開始されれば,Y市長が本件命令を発することが「確実」なので,蓋然性(②)を満たす。
イ また,「重大な損害」とは,損害の回復の困難の程度を考慮することとし,損害の性質及び程度,並びに処分の内容及び性質を勘案する。その上で,「損害」とは,名誉・信用が失われることを指す。なお,取消訴訟(3条2項)と執行停止(25条2項)が出来る場合,「重大な損害」の要件を欠く。
Y市では,法12条2項による移転命令が発せられた場合,直ちにウェブサイトで公表する運用をとっており,Xはそれによって顧客の信用を失うこととなり「損害」が発生する。その上で,移転命令の時点で,取消しの訴え及び効力の執行停止をしたとしても,既に失った顧客の信用は取り戻すことは困難であり,実効的ではない。よって,「重大な損害」にあたる。
ウ 次に,上記の通り,取消しの訴え及び執行停止は,実効的でないため,補充性を満たす(④)。
エ さらに,Xは,名宛人であり(⑤),Y市に被告適格,Y市の所在地の地方裁判所に管轄がある(⑦)。
(2)以上により,上記Xの請求が認められる。
第2 設問2
1 まず,Xが本件命令の取消しを求めるためには,法10条4項,政令19条1項,政令9条1項但書による短縮措置をとらないことが違法であるとの主張をする。以下,検討する。
(1)まず,法10条4項は,位置,構造,設備の技術上の基準という技術的事項を定めている。また,法1条は,火災を予防し,国民の生命の保護という重要な目的を定めており,かかる目的を保護するためには,専門的な事項にあたる。さらに,政令9条1項1号但書は,「安全であると認めた場合」という抽象的な文言を使用している。とすれば,Y市市長に広い裁量がある。その上で,本件基準①~③に基づき,Xに対し,短縮措置を拒否している。そこで,以下,本件基準の法的性質等につき検討する。
(2)この点,本件基準は,法ないし政令と委任・受任の関係にはなく,根拠法規とはならない。また,本件基準は,Y市が内部基準と定めており,行政規則にあたる。とすれば,本件基準は,裁量基準(行政手続法5条1項参照,12条1項参照)となる。
その上で,裁量基準は,合理的理由がなされれば,かかる裁量基準による処分は違法となる。
本件において,政令9条1項1号但書の趣旨は,製造所そのものに変更がなくても,製造所の設置後,製造所の周辺に新たな保安物件が設置された場合に法12条により,移転等の措置を講じなければならなくなる事態を避けることを主な目的にしており,既存事業者の利益と,国民の生命・身体及び財産を火災から保護する(法1条)目的との調整規定である。その上で,上記両者の利益を調整することは,できる限り明確であることが望ましい所,本件基準①~③が規定されている。とすれば,合理的理由はある。
(3)ア もっとも,裁量基準が合理的理由があるとしても,その基準を機械的に適用・運用して処分をなしたことは,裁量権の逸脱・濫用(30条)となる。
イ 本件政令9条1項1号イで30メートル以上の距離を設けた趣旨は,火災を予防し,警戒し,及び鎮圧し,国民の生命・身体及び財産を火災から保護するため(法1条)の技術上の基準(法10条4項)を定めたことにある。その上で,技術上の基準は,「位置・構造・整備」の3つから成り立っている基準である(法10条4項参照)。すなわち,「位置・構造・整備」から相関的に判断して,上記国民の生命等の保護を達成することが,Y市の責務として求められている。次に,Xとしては,本件基準①②にはあてはまらないものの,本件基準③の定める高さより高い防火壁を設置すること,及び,危険物政令で義務付けられた水準以上の消火設備を増設することについては,技術的にも経営的にも可能であり,仮に,本件葬祭場から18メートルしか離れてなくとも上記Xの措置により国民の生命等の保護を図ることが可能である。また,Xは現在の倍数を減らすと経営が成り立たなくなるため,現在の倍数を減らせない状況にある。さらに,20メートル以上離れた位置に移転することが不可能となっており,今後営業すること自体が不可能となってしまう。
とすれば,本件基準①~②をXに適用したことは,Xの利益を図っておらず,仮に,Xの上記措置を考慮しないことは「重要な事実誤認」にあたり,違法である。
ウ 次に,葬祭場は,Xが営業を始めた平成17年の時点では,建築不可能であったが,平成26年の建築制限が緩和され,建築可能となった経緯がある。
その一方で,上記の通り,Xは,現在の倍数を減らせない状況にあり,移転も不可能である。とすれば,営業の自由(憲法22条)が侵害される結果として,実質的に職業選択の自由自体が制約されている重大なものである。その上で,Xは,上記措置をとっている以上距離短縮しうる事案である。
よって,本件基準②をXに適用したことは,比例原則に反し,違法となる。
2 次に,Xとしては,政令23条の要件につき,自らが該当しているにもかかわらず政令9条1項1号但書を適用したことは違法であるとの主張をする。
(1)この点,政令23条の趣旨は,法により危険物規制の基準が全国で統一される一方で,現実の社会には,一般基準には適合しない特殊な構造や設備を有する危険物設備が存在し,予想しない施設が出現する可能性もあるため,こうした事態に市町村等の判断と責任において,政令の趣旨を損なうことなく実態に応じた運用を可能とすることにある。
(2)この点,判断と責任に基づく規定であり,市長に広い裁量がある。もっとも,その裁量を逸脱・濫用したときは違法となる。
私は,短縮ないし距離制限をはずす以上,厳格に判断すべきである。
Xとしては,代替措置をとっているが,特殊な構造や設備を有するとは言えず,予想しない設備にもあたらない。
(3)よって,政令23条をXに適用しないかったことは適法である。
→2再現不可能でした・・・・・。
第3 設問3
1 移転費用について
憲法29条3項による損失補償を実質的当事者訴訟(4条後段)により請求する。
憲法29条3項の趣旨は,憲法14条の平等原則ないし憲法29条1項の財産権の確保をすることにある。
とすれば,損失補償が認められるためには,(a)一般人か特定人か,(b)財産権の本質を害するほどの強度のものかで判断する。
まず,建築基準法(建基法とする)48条の用途地域は,一般人を対象としている。しかし,上記の通り,平成26年の建築規制の緩和により,建築可能となっており,本件移転義務はXにしか生じえないものである。よって,特定人に対するものである(a)。
もっとも,法12条により,Xには,技術上の基準に適合するように維持する責務があり,本件距離制限は,国民の生命等を保護する消極目的規制である。とすれば,財産権に内在した制約とも言える。
しかし,上記の通り,仮に20メートルの距離が必要となれば,Xは費用面で移転が不可能となる。その上で,平成17年の営業当時は,葬祭場は建築不可能であるにもかかわらず,平成26年の緩和により,一方的に移転義務が課され,予想できないものであった。
よって,上記(b)も満たす。
2 以上により,上記Xの請求は認められる。
以上