パパ、見て綺麗なちょうちょ

夕陽が山に沈もうとしている

あっちょうちょさん待って〜

危ない!そこは崖 

俺は慌てて娘の方へ走った〜


ウォォ〜〜〜


無機質な空間から仄かになんかの花の匂いがした。


はっ、夢か!


俺は額から滴る汗を拭った。


「あら、なんか魘されたみたいだけど目が覚めたみたいね」

彼女が悪戯っぽく笑った


「ああ、大丈夫だ。しかしここはどこ、、」

聞きたい事は山程ある。

しかし何から聞いていいか、いや聞くのが怖い。


「10年前に事故でなくした娘さんの夢でも見てたのかしら」

また悪戯っぽく彼女が言った。


「、、、」

なんで、この女はその事を知ってるんだ

「どうしてそのこ、、、」

と俺は言いかけて口をつぐんだ。

やはり聞くのが怖い。


「テレビでも見る?」


テレビからニュースの音声が流れてきた。


〜地震によって○○刑務所から脱獄した3人が全て確保されました。市民の皆様には不安をおかけしましたが、これでまた平和が戻ると思います、それでは警察からの会見です。

脱獄囚の3人は無事全て確保しました。地震による復興等市民の皆様にはまだまだ不安もありますが、警察、防災一丸となり、街の復興に努めてまいります〜


えっ!


「あら、脱獄囚全員捕まったみたいね。これで一安心ね」

と言った彼女は不敵な笑みを浮かべた。


「全員捕まったって、俺は?」

と狐に摘まれた様な顔をして呟いた俺は、他にも3人いたんだとちょっと余計な事を思った。


「地震で壊れた街が復興するには時間がかかりそうね。ちょっと夜風にでもあたる?」

彼女が俺の方を見た。


何が何だか解らない。

もう頭が飽和しそうだ。


「ああ、ちょっと頭を冷やした方が良いみたいだ」


俺は起き上がらろうとしたが、またベッドに倒れてしまった。


「まだ数日、車椅子かな?」


俺は彼女に車椅子を押され、エレベーターに乗った。


彼女は一番上のボタンを押した。


えっ、69階

 

移動の空間の中、彼女の甘い匂いが俺の心を落ち着かせてくれる。


エレベーターが開いた。


オリーブ色の空の中から薄明るい星灯りが辺り一面を照らしていた。


「屋上よ」

彼女は俺を1番景色の良い場所へと連れて行ってくれた。

時折、背中に当たる彼女の胸の膨らみが妙に俺を刺激する。


異空間にきたみたいだ。

地震で壊れた建物も小さな虫に見えて散らばっている。

夜中でも動いているクレーン車等の灯りが妙に蛍のように綺麗だ。


彼女は何も言わない。

俺は聞きたい事が山程あるが、暫くこの空間を楽しみたかった。


「稲葉明、50歳、10年前に娘を事故でなくし、その2年後妻に愛想つかされ離婚。その後はギャンブルで闇金に追われる人生、、

合ってるかしら」


彼女が静かに呟いた。


俺は驚きもしなかった。


しかしこの女、いったい何者なんだ。それに俺はどうなる?


「ああ、全て合ってるさ」


俺はもうそれ以上聞かない事にした。


どうせ、聞いても何も変わらない。

これからの人生、この女に身を委ね賭けてみる事にした。


しかし不思議な空間だ。

自然が生み出した夜中のオリーブ色の幻想的な空間。

人の力なぞちっぽけな物に思えてくる。


彼女が車椅子の俺の前に来て跪き、

そっと、キスをした。


「明日、パパが来るわ」


そう言った彼女の瞳には力強さが溢れていた。



〜続く〜


時期外れですが、15分程度でサクっと読めるメルヘンファンタジーです。

良ければお読みください。