襲いくる影 | 霊感女のリアル恐怖体験実話集

霊感女のリアル恐怖体験実話集

霊感をもつ私がリアルに体験した本物の恐怖体験や心霊体験をできるだけ詳細に書いていきます!
☆おばけや幽霊って本当はどんなふうに見えるの?等の疑問がここで微力ながらも解決のお手伝いができたら本望です
※注意※ここに記載されている全ての怪談記事内容は転載禁止です。

 
私が高3の頃の体験談です。

その夜はとても寝苦しかった。
夜更かしはお決まりだったが、大体深夜3時をまわるとウトウトしはじめるのだが、その晩は全く眠気が来なかった。

ベッドは部屋の奥の窓際に置いてあり、寝苦しいといつも窓を少し開けて、隣の個人医院の立派な庭園に建っている、ぼんやりと幻想的に灯る庭用のライトを見ていると、だんだんリラックスして眠れるのだが、その日は全くライトやガーデニングに集中できず、何か心が不安な気持ちになって、妙な焦燥感に襲われていた。

寝返りを打って、頭を窓とは逆に向けると机があり、その向こうに大型のタンスがこちらを向いてドンと立っている。
そのタンスの右横に部屋のドアがあるのだが、医院の庭園から入り込む、ライトの青白い薄明かりによって、大型タンスと机の後ろにあるピアノがドアのまわりに深い闇をつくっていた。

私は、その闇の奥にあるドアのノブを何気に見つめていると、何か胸が潰されるような息苦しさを感じたので仰向けに体をなおし、視線を天井に向けて『フゥ…』と、呼吸を置いた。
すると少し落ち着いたので(トイレにでも行くか)と、ベッドから体を起こそうとしてふとまたドアの方に視線を向けると、ドア辺りの闇の中に何やら人のかたちをしたものが、闇より黒く浮かび上がっているように見える。

(え?なに?)

よく目を凝らしてその黒い影を見ようとするが、ソレを見ようと目を凝らしていると、部屋の薄明かりまでもゆっくりゆっくり闇にのまれていくかのように部屋中が暗くなっていく感覚に襲われる。

私はなんともいえない、恐怖を感じた。

今まで出会ってきたそういうものとは違う、なんというか『勝てないやつ』というか『襲うやつ』『攻撃的』な感じがなんとなく直感で感じ、動物的本能で(布団にもぐれ!寝たふりをしろ!)と、信号が送られ私は、その影から背を向け、布団を被ってじっとした。

しかし、恐怖を誤魔化すことはできておらず、体は勝手に震えた。
じっとしようとすればするほど、唇はフルフルと震え、布団をつかむ手もカタカタと震えた。

私は、子供の頃から『怖い』『不安』が込み上げパニックになりそうになると、なぜか『1+1=2 2+2=4』と、足し算をする癖がありそれをしていると落ち着くのでそれを布団のなかでしていた。
すると、ふと空気が軽くなり恐怖も薄くなっていた。
(もう、大丈夫かも)
そう思って、布団をゆっくり剥いで恐々ドアの方を向くと、その人型の影が闇からはみ出して薄明かりのなかに出てきている。

私は息をのんだ。

がばっと再び布団を被り、布団のなかで最大の恐怖で激しく乱れた呼吸をととのえようとしながら、心のなかで(どっか行け!どっか行け!)と、強く願っていた。

緊張がどんどんピークになっていく。
耳の奥が詰まるような感覚になり、息は荒れていく。

(ハァ…ハァ…ハァ、いなくなれー!いなくなれー!)

しばらく、どのくらいかわからないが、いなくなれー!と、念じていると体が軽くなり、空気ももとに戻り、耳の詰まりもなくなった。

しかしやはり怖いので、またゆっくり布団をめくり、布団の外をみると目の前には曇りガラスがあり、変わらぬ穏やかな青白い薄明かりが入り込んでいた。

少しホッとして、恐怖を忘れるためにハマラジ(FM横浜、当時ハマラジと呼ばれていた)をかけようと、コンポのリモコンを机から取ろうとして、机の方を向くと、なんとあの影は机の前まで来ていた。

(はっ!)

私は恐怖感の限界を一気に通り越して固まった。

そして顔の見えないそいつは私の方をじっと見ていた。

ひっ、ひっ、ひっ、という呼吸しかできなくなり、そいつから目が離せない。


その姿は真っ黒で、黒い影そのものだった。
背丈は150センチ程で、ボブヘアーのような印象があるが、なんとなく歌手のイルカが影のみになったように感じます。

なんともいえない恐怖感が、どんどん体の内側から溢れてきます。

(怒っている、こいつは私に怒っている)

その感覚が、恐怖をどんどん増幅させていった。

どうにか(やめて!どっか行って!)と言いたいのだが、声がでないというか口が動かず「はう、はう」と、息の声だけ出ているとその影は、両腕をゆっくりと上げてきた。

まるで首を絞めようとする姿だ。

私は(殺される!)と、瞬時に思い急いで布団を頭までかぶり、影に背を向けるように縮こまり、心で助けて!助けて!と何度も願った。

すると、とても昔のことを思い出した。

過去ブログ『いくみちゃん』にも出てくるお坊さんが、「南無妙法蓮華経と、唱えるんだよ」と言っていたことを思い出して、ずっと心のなかで「南無妙法蓮華経!南無妙法蓮華経!助けて―!助けて―!」と、念じていると、布団の外から『出ていけ…』というボソッとした低い声がした。

私は気が遠くなった。

「ご先祖様助けてください!悪いことしません!いいこ子でいますから、どうか助けてください!」

必死で、本当に必死で念じていると
耳の奥が、シューンという感覚で軽くなり、急に布団のなかにいることが息苦しくなった。
恐々布団をゆっくりめくると、ガシャシャ!っと曇りガラスの外に、飼い猫のミーちゃんが夜の散歩から帰ってきて、医院の庭のブロック塀から窓の柵に飛び込んできて、窓を開けろとカリカリと窓の縁を引っ掻いた。

ミーちゃんの登場で恐怖が薄れ、窓をカララっと開けると「うにゃお」と言いながらミーちゃんが汚い足で布団の上に上ってきて寝転んだ。

私はガバッと起き上がり、机の前、ドアの前を見ると、なにもいなかった。

私はベッドから飛び出して、ドアにかけよりノブを慌てて回して部屋の外のダイニングに出て、トイレの横の母が寝ている仏間に飛び込んだ。

あまりの騒々しさに、母が布団からむっくり起きて「何よ…うるせえよ…」と、迷惑そうに呟いた。

「お化けが出た…」
私が放心状態でそう言うと
「え…?なに?」母は少し怯えながら聞き直してきた。
「黒い影が、首を絞めようとしてきた」
私が再度そう言うと母は物凄い怪訝な顔をしながらなにも言わず、仏壇の引き出しから白檀でできた首から下げる数珠を私の首にかけ、仏壇に線香を焚き手を合わせはじめた。

そして、母の布団のとなりにもう一式布団を敷いてくれ「ここで寝なよ」と言ってくれた。

そこから一気に寝たのか、気づけば朝で父も起きていて、母が夜中のことを話したのか父は心配そうに「でえじょうぶかよ(大丈夫かよ、という意味。)」と聞いてきた。
「うん。」そう言って、学校に行く準備をして朝御飯を食べていると父がこんな話をし始めた。

「おめえの部屋、出るだよなぁ。お父さんもよぉ、昔ここで寝てたとき、白いもんがよぉ、窓からスーッと入ってきて、お父さんのことじーっと見てるだよ。そん時金縛りみてぇに動けねぇから、力いっぺえ「出てけー!」っていったらいなくなったけど、ここの部屋はよくねえなぁ。」

そんな話を聞かされ、もう今夜からこの部屋で寝れないと訴えると、暫くは仏間でお母さんと寝ることになった。


学校に行ってから、休み時間に仲のよいヨッちゃんと、エッちゃんに昨夜の出来事を話すと、ヨッちゃんは腰を抜かして「きゃぁぁ!」とさけんだ。
「よくアンタ登校できたね!休まなくていいの?」と心配してくれたが、あの家から離れたいに決まっている。
「みんないるところの方が怖いくないし」というと、今心配してくれたヨッちゃんは「私にうつさないでね」とか、病気のような言い方をして、なんか薄情な感じがした。

帰宅すると、母が一枚の写真を見せてきた。

「その影ってのはよ、この人じゃないの?」と。

見せられた写真は白黒で、戦後まもなくの昭和という感じで、『8時だよ全員集合』のかあちゃんシリーズに出てくるような、古い木造平屋の引戸タイプの玄関前の様なところをバックに、少しふっくらした若い女性が写っている写真だった。
その女性は、黒髪が首くらいまでのおかっぱのようなボブのような髪型で、前髪を横分けにヘアピンでとめて、昭和のご婦人がよく着ていたよくわからない柄のブラウスと、細いベルトのフレアスカートを着た年の頃二十代の、お世辞にも美人とはいえない女性だった。

お見合い写真だろうか?
それにしても無愛想にこちらを見つめている。

私は写真を食い入るように確認する。

「どうだ?」
母が急かすように聞いてきた。

「うーん…。確かにこの髪型はにてるような気がしないでもないけど、とにかく真っ黒な影だったから顔もはっきりしないし、髪型もよくわからないなぁ。」
首をかしげながら私は、そう言った。
すると母は「そうか。この人だとばかり思っただけど…違うのかねぇ…」と、意味ありげな言い方をした。
「この人だとなんなの?」
私が聞くと、母はこんな話をはじめた。


『昨日、お前がお化けが出たって部屋に来てよ、数珠を首にかけるとき、なんだかお前の匂いじゃない昔どこかで嗅いだような匂いがしたんだよ。
そんで、布団敷いてやってお前が布団の上に座ったときの後ろ姿が、お前じゃねえみてぇでよ…お前の後ろ姿がなんだか不気味な、おっかねぇような、嫌―な感じがしたんだよ。
そしたら、朝お前がこのくらいの髪の毛でって話したべ?その時この人のことを思い出したんだよ。この人が、よく髪の毛につけてた油の匂いが、昨日お前からした匂いと一緒だったんだよ。』
珍しく母は、青ざめて声を震わしながらたばこ片手に話した。

「この人は誰なの?」私は聞いた。

『この人はよ、ジィの(私からみた叔父。母の姉の旦那さん。私は叔母と叔父を幼少の頃からバァ、ジィと呼んでいた。)御姉さんなんだよ。
この家はもとはジィの家系の土地で、床屋だったんだよ。ここでバァとジィは二人で床屋を営んでたの。
それで、数件先に昔金物屋があったべ?そこもジィの土地だっただけど、その金物屋だったところにもとはその御姉さんが両親と暮らしてただけど、恋愛のもつれで御姉さんがおかしくなってな。フラフラとここの床屋に昼間来ては刃物をいじくるから、ジィとバァは、慌てて刃物をしまう事をよくしてたよ。
昔は、そういうのをノイローゼだ、といって近所では可哀想にと話してただけど、いずれ家から出なくなってな。そのうち両親も亡くなって、葬式に御姉さんが来たときは、すっかり痩せて幽霊かと思ったよ。
あの家に一人にするのは心配だと、ジィとバァは、話してたところに、御姉さんがあの家の居間で首吊ってるのが見つかったんだよ。』

衝撃的な話だった。

そんなことがあったなんて、全く知らなかった。

「首吊り?!自殺してるの?!」
私はパニックだった。
「ノイローゼだったからな。思い詰めてただべ。」母は、あの頃を思い出しながらその御姉さんを哀れんだような、でも恐れているような、そんな表情でボソッと言った。

私はひとつ、とても恐怖を感じていることを母に聞いた。
「ねぇ…、さっき、私からその御姉さんが使ってた油と同じ匂いがしたとか、私じゃないみたいだとか言ってたけど、私にとり憑いてるのかな?!」とても怖かった。
「さぁな、わかんねえよ。」
母も怖いがどうしようもない、といった具合だった。

私は不安と恐怖で頭がおかしくなりそうだった。

その場にいた、私も母も純ちゃん(兄の奥さん)も沈黙してしまった。

そんなとき外階段を、タン・タン・タンと上がってベランダを歩いて勝手口から父が入ってきた。

「おお、あやめ帰ってたのかよ。来週お祓いだから。お前は学校に行ってていいから。」
父は、純ちゃんのお母さんが以前柿の木を切ったときに祟りにあって(前ブログ 祟りを起こす柿の木、参照)、その時依頼したお寺の住職さんを純ちゃんのお母さんから紹介され、お願いしたようでした。

お祓い当日、私は学校だったのでどんなお祓いだったのかはわからないが、帰宅すると家の回りがみっちりと米と塩だらけになっていて驚いた。
さぞ大掛かりなことをしたのだろうと、ちょっとご近所の目が気になった。
そして、2階の住まいに行くとまだ住職さんがいて、住職さんと父と母が、私の部屋のドアのところで、ドアの上をみながらモソモソしている。

「ただいま」
と声をかけると、両親はお帰りといって、住職さんもお帰りと笑顔で迎えてくれた。

その住職さんは、年齢60才くらいで細身の笑点の喜久三みたいな優しそうな人だった。

「住職さんが、お札を作ってくれたよ。これをお前が見た場所の上に貼るんだよ」といって、父がドアの上に貼ろうとしていた。
すると住職さんが「お父さんちょっと待って、あやちゃん、影が立っていたのはここであってる?」と聞いてきたので、私はその影が立っていたところに立って「ここにこういう感じで立っていました。」と説明すると「ありがとうね。わかりました。やっぱりここに貼りましょうか」といって、ドアの縁の上に御札を貼ってくれた。

「これで大丈夫でしょう。」と住職さんは笑顔で言った。

ダイニングで、父母住職さんとお茶を飲みながら話をした。

住職さんはこう話してくれた。

「本当は、みんなともう帰らなくちゃいけなかったんだけどね、どうしても君に会ってみたくてね、他のものは先に帰して私だけ残ったんだよ。そうかい、君がね。わかる気がしますよ。会えてとても嬉しいですよ。仏様が会わせてくれたんでしょうな。
君は、あの影が怖いかい?」
住職さんは、よくあるお客用の湯呑みに入ったお茶をそう言ってゆっくり啜った。

「とても怖いです。取りつかれてるかもしれないし。」
私は正直にそう言うと、住職さんは優しい笑顔でこう言った。
「そんな簡単には取りつかんよ。だって君は悪いことをなにもしていないのだからね。
でも、もし君の学校の席にいつもいつも知らない人が我が物顔で座っていたらどうかな?」そう住職さんは私に聞いた。
「注意するかなぁ…」私はよく考えてからそう答えた。
「そうだろうねぇ。でもそれでも毎日毎日我が物顔で座っていたら嫌だよねぇ?」
「はい」
「あの影はね、このお家をまだ自分のお家だと思っているの。だから、君がピアノを弾いていたり、お勉強したり、お友だちを呼んだりしているのを、私の家で何してるのよ!って怒ったんだ。出ていけ!って言われたんだよね。」
「はい」
「うん。そう言うことなんだよ。驚かして出ていってもらおうとしただけなんだよね。霊はね、もとは君と同じ人でしょ?どんな亡くなり方をしようとも人は人なのね。だから、怨霊だとかそんな恐ろしいことはめったにしないから、怖いと思ったら霊も可哀想なんだよ。何かあったらいつでも相談に乗るから、恐れず過ごしてくださいね。」

住職さんはそう話してくれました。

私は、住職さんの言葉と御札のお陰で、またあの部屋で眠れるようになった。

私の部屋にもう影は現れなくなった。

あくまで私の部屋には。


次回に続く…