前回からものすごく間があいてしまった。
季節はすっかり秋。
どちらかというと今は連続ドラマにハマる日々であるが、その間に鑑賞した名作映画の紹介を。
米国の超人気カントリー歌手、ジョニー・キャッシュの自伝的な映画「Walk the line」(ウォーク・ザ・ライン/君につづく道)を観た。以前からずっと観たいと思いつつ、延び延びになっていた本作品。
カントリーの熱狂的なファンでもなく、ジョニー・キャッシュという名前こそ耳にしたことはあるが、
すぐにそのヒット曲が頭に浮かぶほどよく知らなかった。
実は、エルビス・プレスリー(作品内に登場)や、ビートルズと同時代の人で、
大ヒットを飛ばしているのだけど、エルビスの知名度と比べると世界的にはそこまで知られてはいないだろう。
活躍したのが、カントリーという米国に根付いた音楽分野であったのもあるだろうけど。
いずれにせよ、カントリーの大ファンでなくても楽しめてしまうのがこの作品の良いところ。
ジョニーキャッシュが無名の時代から結婚を経て、歌手として成功のステージを登り始め、そこで出会ったカントリーの先輩歌手でであるジューン・カーターとの出会い。そしてジューンに捧げる一途な思い。
この作品はジョニーの音楽の遍歴を辿れるのみならず、純粋なラブストーリーとしての味わいもある。いやむしろその魅力の方が大きい。
同じ曲でも、あぁ、内面にこんな思いを抱えつつ歌っていたのかなぁ、というその時に流れていたストーリーがわかるとより印象深く胸に響くね。
本作品を見終えると、「あれっ、あんまり興味なかったはずなのに、なんかカントリーソングのファンになってきたかも...?!」と思ってしまうのは、この作品が音楽のみならず、それを歌い上げる歌手の人間臭さも十分に伝えているからだろう。
主演のホアキン・フェニックスが演じる、くどいぐらいに個性派のジョニーも良いが、本作でアカデミー主演女優賞を獲得したリース・ウィザースプーンが演じる太陽のように明るく芯の強い米国南部の女性のシンガー、ジューンも素晴らしい。主演2人の語尾を引きずりながらしゃべるような南部訛りの英語は、どこか土臭くて、それでいて温かみのあるカントリーミュージックの魅力を余すところなく伝えてくれる。
ウィザースプーンの南部訛りも自然過ぎて、ほんと実力派の女優さんはすごいわぁと思って、ちょっと調べてみたら、なんと彼女は南部出身(ルイジアナ州)であった。どうりでうまいわけだわ...!!
ハリウッド作品ではよく思わされることだけど主演の2人ともが吹き替えなしで歌っているというのは、さすがとしか言いようがない。
最後に本作品のタイトルでもある、ジョニーキャッシュのヒット曲「Walk the line」の歌詞より。
I keep a close watch on this heart of mine
I keep my eyes wide open all the time
I keep the ends out for the tie that binds
Because you're mine, I walk the line
僕は僕のハートをじっと見張っているんだ
そして目は常に見開いている
君と固く結ばれるその絆の先をいつも差し出しているよ
君は僕のもの、だから僕は正しい道を行く
音楽活動の傍ら、ジューンとの不倫の関係にはまり(のちに結婚)、薬物中毒やアルコール依存症に悩まされたジョニーが「I Walk the line」(僕は正しい道を歩む)と歌うのは少なくとも本人の「本当はこうありたいんだ」(でもそれがなかなか難しい)という思いを感じる。
でも、生きている間に抱え込んでしまう心の重しだったり、かならずしも理想通りには進んでくれない人生の体験が、その人の生き様を深く多様に見せてくれるのは、超人気者の歌手であっても、平凡なひとりの人間であってもまったく同じですね。
ちょっと追記で。
この映画を見ていると「僕は正しい道をいく」というのはジョニーがジューンに捧げた言葉であるかのように思われ、元妻のヴィヴィアンはジョニーの仕事への理解にいまひとつ欠ける女性であるかのように描かれている。
だが、この元妻のヴィヴィアンがジョニーの死後に「I walked the line」という本を出版している。
つまりジョニーのヒット曲のタイトルを引用して「正しい道を歩んだのはこの私よ」と。
ざっと内容を見たところでは、ヴィヴィアンはジョニーのことが大好きで、2人はお互いを深く愛していたのだという。
ここではちょっと映画とは違った、元妻から見た視点が浮かび上がってくる。これも読者からの評価が非常に高い本なので、本当のところはどうだったのかを知りたいならばぜひ一読をお勧めする。(私は全部を読んでいないが、きっと面白いに違いない)
物語というのはあらゆる方面から語られて、やっと見えてくる風景というものがありますね。
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