平成27年9月23日(水)
京都府大会から時所変わって9月23日、水曜日。秋分の日であり5連休の最終日。満員の地下鉄中央線は、朝潮橋で殆どの乗客が下車。車内に残った乗客は、何があるんだろう?と不思議そうな顔。外はからっと晴れわたり、暑くもなく寒くもなく、絶好のマーチング日和です(コンテストはもちろん室内)。その証拠に会場である大阪市中央体育館への歩道も、体育館周囲も人がいっぱい。
ところで、この記事は関西マーチングコンテストのレポートですが、音楽のド素人がいきなり本番を一回見ただけでは殆ど何も書けません。なので京都府大会の映像を参考にしています。曲目変更以外のマーチング構成に大差は感じませんでしたが、細かい部分を見落としたり、京都府大会と関西大会の演奏演技がごちゃ混ぜになっているかもしれません。予めご了承ください。関西マーチングコンテストは録音録画撮影全て禁止なので、もう見れないんです。そう、本番は一回だけ。それは演者も審査員も観客も全て同じ。
開場とともに自由席はあっという間に満杯。審査員の先生の紹介が終わるといよいよ高校以上の部が開演。そして10時07分。
プログラム2番、京都橘高校吹奏楽部。Find Your Adventure。
入場口が開くと、ハーツアーワーン!の掛け声。元気良くフロアに飛び出した81人が大きな拍手で迎えられる。カラーガードや持換え楽器の配置を補助なしで手際よく終える。ドラムメジャーが腿をたたくパーンという音を合図にセットアップ。
ワン、ツー、スリー。ドラムメジャーの落ち着いた指揮のもとハイライツ フロム プレーンズで開幕。クラリネットで離陸するとぐんぐん高度を上げて行くトランペット。一瞬の乱気流にも慌てない。機影の映る大地を表現する低音パートと共に遊覧飛行へ。後方のバンドが手を差し上げる。さらなる高みへ。その先にあるものは・・・・・
昨年11月大阪城ホールで確かに触れた。触れたけれども最後の最後で掴みきれずにするりと逃げていった、3つ目のG。今年こそという切なる願いと祈りを込めた、演技だけど演技ではない本心。それが伝わってくるので、こちらも込み上げてくるものがあります。とはいってもやはり橘。楽しい6分間を見せてくれるにちがいありません。全員で描いた「TACHIBANA」の人文字で客席に挨拶を済ませ、ドラムの強くて軽快なリズムが始まると場が一気に転回。橘の外周歩きがメリーゴーランドに乗って始まります。低音パートが引っ張るメロディーに乗って軽く隊列を調整すると、ここからはマーチングバンドとしての橘さんが本当の力量を見せつけてくれます。
橘はダンス、という見た目のカッコよさから私も忘れがちになるのですが、外周歩きこそ橘の真骨頂。マーチングの基本中の基本ができているからこそダンスが生きてくる。芸事では型ができていなければ崩せない。崩してはならない。橘さんのダンスを崩すと表現するのは抵抗がありますが、ダンスだけなら楽器体操で、音楽美へは昇華しません。その基本を毎年問われ、毎年当然のように結果を出すところが橘さんの凄いところだと思います。
フロアではトランペットがメリーゴーランドに乗る前の高鳴る鼓動を響かせながら、ドラムメジャーのホイッスルで行進開始。橘さんが歩きながら美しい二次元の幾何学模様の移り変わりを見せてくれるのはコンテストならでは。各列がスライドして長方形から平行四辺形へ。カラーガードが客席へ手を振りながら笑顔を届けてくれる。メロディーがサキソフォンへ移り最初のコーナーを手堅い隊列交差を見せながらターン。ホルン+トロンボーンへメロディーが移り、2番目のコーナーから3番目のコーナーへは切れ目を入れず流れるようなターン。後部各列がスライドして逆向きの平行四辺形へ。先頭を行く木管が最後のコーナーに入ると、メロディーはクラリネットへ。その音にふさわしく丸みを帯びた扇形のターンが決まる。正面に戻った木管が後方へ、後部の金管が下手側から中央へ向かう。昨年の特集番組でも「木管の細かいメロディーも綺麗に吹けている」と評価されたところ。今年も丸っこくて柔らかい音を響かせてくれる。フォーメーションが変わり、橘のイニシャル、飾りつきのTの文字が浮かび上がると足踏み演奏へ。メリーゴーランドって楽しい!全員の心の躍動が音と共にビンビン伝わってくる。
昨年の全日本マーチングコンテストを特集したバンドジャーナル(2015年2月号)で評者の田中久仁明氏(なんと今日の審査員です!)によれば「(足踏み演奏は)演奏者個々のスキルの高さが相当強く要求される」部分です。
そして規定演技のハイライト、隊列反転。Tの文字を構成していた一人ひとりが勝手な方向に移動しはじめる。てんでバラバラな方向へ歩いているように見えるけれど、ドラムメジャーのホイッスルが空間を切り裂くと、全員が一方向へ向かって歩く隊列が出現。ここが一番カッコいい。無秩序の中から秩序が突然あらわれる。自然界ではこんなことは起こらない。意思を持った人間でなければできない動き。そう、勝手な方向へ歩いているように見えた彼等は、本当は自らの明確な意思でそこへ向かっていたのです。京都橘の校長先生の言葉にあるとおり、橘は線で動くのではなく、各々が意思を持ってそこへ向かう。隊列は上手側に向かって進み、反転はスリークオーター(4分の3)ターンが次々と華麗に決まってゆきます。その間も音は何事もなかったかのように寸分の狂いもなくリズミカルで楽しげです。目を瞑って音だけを聞いていたら、どんな演技が行われているか分からないでしょう。曲全体を通して印象的だったのがフルート。ユーフォニアムなどが音の厚みの縦方向を結び合わせるなら、フルートは音の厚みの中を水平方向に飛びまわって細かく細かく縫い合わせ、音全体の肌理、手触り、時にはフリルのような装飾を作る糸のよう。
全員が反転を終えると、3曲目へ。京都府大会ではクラリネット7重奏によるHere's That Rainy Dayでしたが、関西大会ではクラリネット5重奏によるミスティに曲目変更されていました。ご存知の方にとっては懐かしい曲。この部分、おそらく橘さんにとってはSingへつなぐ構成上最も難しいところではないかと推察します。ここではバンドは俯いて動かない。パーカッションは楽器持ち変えでシークエンス通りに動いてはいるけれどバタバタしているようにも見える。本来なら暗転してスポットライトの当たるべきところ。客席の目と耳を、音だけでそこに集中させる。動かなくても聴かせてみせる。座奏のコンクールでは当然のことだからそれほどのことではないのかも知れませんが、私にとっては、その緊張感を想像するだけで震えがきます。集中力を切らず最後まで吹ききってくれ、もうこちらは聴くというより祈るという感覚。
ミスティの後半、背後からドラムの音が少しずつ入ってくる。バンドもステップを踏みながらフォーメーションチェンジ。バンドも客席も盛り上がってくるとクラリネットがぴたっと止み、ドラムが一気に躍り出る。タン、タン、タンタンタンタン!バンドが一瞬で腰を落とし、5,6,7,8とステップを踏みながらピシッと立ち上がる。8で両足を合わせる靴音とパーカッションの音がタンッと揃い、バーン・ザ・フロアにインスパイアされた橘流(The TACHIBANA STYLE)のSing Sing Singが始まります。Full Swing with Winding。全力で吹きながらの切れのいいダンスはヤワなものではありません。蹴りだす足の伸びや形、高さ、タイミング、角度全てが揃う。楽器は空中で吹くんです。限界を極めたその凄さ、カッコよさは私にはとても書き表せません。映像を見てください、いやぜひ生で見ていただきたい。これ以上は楽器を改良しないとできないレベルまで洗練されています。原曲というか橘流初期にはない一拍動きが止まる瞬間は2011年からでしょうか。これが効果絶大。エジソン級の大発明。
そしてSing Sing Singは中間部も毎年楽しませてくれます。今年はなんとジャンプ!縦2列の一方が順々にしゃがんで頭を下げ、もう一方の列がその上を飛び超えて列を入れ替える度肝を抜く技を見せてくれました。
フロア中央に縦4列が揃うと、内側の列がジッパーを開けるように外側へ飛び超えて行く。頭の位置の高低差約2メートル!開いた中央奥からスーザフォンが楽器を回転させながら迫ってくる。バンドが引き戸を閉めるようにスーザの前に滑り込んでくるとバンドは反転後ろ向き。今度はフロア正面に止まり歩きで待ち構えていたスライド式楽器がスライディングウォークで滑り出す。小気味良く音を切るトロンボーンにトランペットが文字通り走りこんできて高音をのせていく。昨年のフォーメーションではがら空きだったフロア中央は、今年はカラーガードが展開し華麗なガード捌きを見せる。最後方のバンドの動きも反転や前進の仕方が橘らしく茶目っ気たっぷり。
キャーッという黄色い声がホールに響き渡ると全員が駆け出して最後のフォーメーションへ。ここからは面でも点でもなく、線での動きを見せてくれます。バンドは横3列から縦6列へ。音もダンスもクライマックスに達し、ラストへ向け一気に駆け抜ける・・・と思ったら、止まった!そうそう中間部で開けたジッパーがそのままでした。閉じないと。今度は外側の列が内側へジャンプ!そしてパーカッションを含むバンド全員が腰を落として沈み込むと一瞬の静寂。楽器ではなく、衣擦れや立ち上がる時の靴の揃うパンッという音で再始動。この構成、ある意味橘さんの今年にかける執念を感じます、本気中の本気。今度こそ本当のラスト。縦6列が三重のVの字をつくりフィニッシュへ向かって全力で駆け抜ける。パーカッションのリズムに木管の美しい水平音が低く、そして高く、ふたたび低く、金管がその上でリズム良く踊る。最後は厚みのある一枚の音になって全員が力の限り吹き切り、Hey!
あっという間の6分間でした。拍手の大きさでは地元大阪の高校に分がありますが、拍手が長く続くという点ではやはり橘さんが一番です。
表彰式前。客席が満杯で、急遽出場団体の生徒さんは全員がフロアに整列。ここでも橘さんの衣装はひときわ鮮やかで華やかです。ところで今年の全国代表枠は3校しかありません。最初プログラムを見た時には目を疑いました。
表彰式は淡々と進み、橘さんは無事に金賞を受賞。他には大阪桐蔭、淀川工科、早稲田摂陵、箕面自由学園、滝川第二の計6校が金賞を受賞。
「続きまして、来る11月22日、大阪城ホールで行われる全日本マーチングコンテストに関西代表として出場していただく学校を発表いたします。3校です。」
・・・・・一瞬静寂が会場を支配し、私は前のめりに・・・・・・
「プログラム2番、京」もうその後は大きな拍手で何がなんやら。もちろんその中には、膝の上の荷物を全て落としても放ったまま拍手する私も含まれていますが。そして後は「オオ・・・コウカ・・・タキ・・・イニ」という言葉の断片が聞こえただけです。
京都橘高等学校吹奏楽部の皆さん、関西大会金賞・全国大会出場決定、おめでとうございます。私自身、こんな嬉しい気持ちを生で味わったのはいつだったか覚えていません。とにかく本当に嬉しいです。おめでとう!そして、ありがとう!